救急現場で目にすること
スタンフォード大学とバンダービルト大学の胸部外科医として、筆者は救急外来を担当してきた。救急診療科では近年、猛暑の時期に熱中症関連疾患による受診が急増している。
熱中症関連疾患に含まれる症状は心臓疾患より広範だが、特に高齢者や心臓病患者において熱波の期間に心血管系の有害事象が増加する理由は、前述した生理学的経路によって説明できる。
炎症が共通の経路
ここ10年ほどで明らかになった共通の要因は、炎症だ。体内で炎症や組織損傷が起きた際に血液中に増えるタンパク質(C反応性タンパク質)の量を測定する高感度CRP(hsCRP)検査は、全身性炎症反応のマーカーであり、将来の心血管リスクを追跡する指標となる。
炎症反応を促進するサイトカインと呼ばれるタンパク質IL-1β(インターロイキン-1ベータ)を阻害するモノクローナル抗体治療薬カナキヌマブを心筋梗塞の既往患者に投与した無作為化試験(CANTOS試験)では、脂質を低下させることなく主要な心血管有害事象が減少し、治療中にhsCRP値が低下した患者で最大の効果がみられた。これは要するに、炎症反応そのものが動脈硬化に深く関与しており、炎症を標的とすることが治療と予防を成功させるために重要だということを示している。
この点で、都市緑化計画には非常に強い説得力がある。ケンタッキー州ルイビルで、地域に数千本の樹木や低木を植樹することで暑さ、大気汚染、騒音、ストレスを低減し心血管代謝の健康を改善できるかを検証した「グリーンハート・ルイビル計画」では、緑化区域の住民のhsCRP値が対照群と比較して13~20%低く、全身性炎症の減少と一致するという中間結果が出ている。こうした自然に基づく解決策は、暑さを大いに和らげ、大気中の二酸化炭素や有害汚染物質の除去にも大きく貢献する。
科学的結論
エビデンスは決定的だ。病態生理は十分に解明されており、結論は明白である。
猛暑日の連続は心臓に負担をかけ、心血管死を増加させる。大気汚染(気候変動によって増加した山火事の煙や地上オゾン濃度の高まりも含む)は冠動脈疾患を引き起こし、不整脈や心不全を誘発する。そして、炎症はこれらの疾患につながる共通経路であり、測定して積極的に修正できる。
ここで話は冒頭に戻る。バンダービルト大学の心臓移植外科医として、筆者は生死の境にある患者の治療に携わってきた。しかし科学者として、またかつて政策立案に関わった者として、データが示す事実を無視することはできない。
それは、気候変動そのものが心血管リスク要因であるということだ。これは皆さんの家族にも、近所の人たちにも、さらには生きとし生けるすべての存在の鼓動に関わる問題である。だからこそ私たちは関心を持つべきだし、きっと今こそ行動を起こすべきなのだろう。


