ヘルスケア

2025.09.21 12:00

猛暑に悲鳴を上げる「心臓」 気候変動対策が私たちにとって重要な理由

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近年のメタ分析によれば、気温が1度上がるごとに、心血管疾患(CVD)による死亡率は2%上昇する。熱波時には心臓や血管のトラブルに起因する心血管死が約17%増加し、その影響が最も大きいのは高齢者である。

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暑い日に起きやすい脱水症状は、心臓へのリスクを増幅する。血液が濃縮され、血栓の形成を促進するため、心筋梗塞や脳卒中につながるのだ。暑さは健康に重大な影響を及ぼす。

冠動脈疾患(虚血性心疾患)と大気汚染

気候変動はまた、冠動脈疾患のリスク要因と判明しているPM2.5(微小粒子状物質)による大気汚染を悪化させる。PM2.5は化石燃料などの燃焼によって発生するが、温暖で乾燥した世界では、むしろ頻発する山火事や砂嵐に由来するPM2.5が大気汚染の原因となりやすい。

PM2.5を長期にわたって吸い込むと、環境基準値以下の濃度であっても、酸化ストレス、内皮機能障害、自律神経不全、血栓症などが複合的に影響し、虚血性心疾患(IHD)と心血管死のリスクが上昇することがわかっている。

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大気汚染と動脈硬化の関連性について米国で多民族横断的に調査した画期的なコホート縦断研究「MESA Air」では、PM2.5と交通汚染物質への曝露量が多いほど、心臓発作の原因となる動脈硬化の客観的指標である冠動脈石灰化の進行が早くなることが明らかになった。

35件の研究を対象としたメタ分析からは、大気中のPM2.5濃度がわずか10μg/m3増加するだけで、心不全による入院・死亡のリスクが約2%上昇することが判明している。

気候変動は大気汚染を悪化させる。それは気温が高く、日照時間が長く、風のない日は地上付近のオゾン濃度が上昇するためであり、温暖化が進めば山火事の頻度が増え、規模も拡大するからであり、大気の停滞現象が増加するほど人々の居住する地域に汚染物質が溜まりやすくなるせいである。これらの要因が相まって曝露量が増加し、心臓や循環器系そのものにダメージをもたらすのだ。

不整脈と心不全

不整脈のある人は珍しくない。心房細動(AF)や心室期外収縮(PVC)と診断された人もいるだろう。加齢とともに心房細動のリスクは高まる。筆者も心房細動と心房粗動の症状に対して心房アブレーション治療を受けた。

だが、不整脈は気候の変化により悪化する。心臓を規則的に拍動させている刺激伝導系は、暑さと汚染物質に敏感だ。植込み型心臓デバイスを使用している患者を対象に複数の都市にまたがって実施された分析によれば、屋外の極端な暑さと心房性頻拍性不整脈や心房細動との間には、用量反応関係が認められた。研究論文は、対象の患者集団において「屋外の極端な高気温は、心房細動発作の発生率上昇と有意に関連していた」と結論付けている。

短期的なPM2.5濃度の高まりも、自律神経系や虚血の機序を介して不整脈や心不全の急性増悪と相関関係がある

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翻訳・編集=荻原藤緒

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