経営・戦略

2025.10.01 14:15

酒味ラテで売上20億円 香港『瑞幸珈琲』の独創戦略、注文は中国語オンリー

筆者撮影

「低価格×テクノロジー」の中国発コーヒー

ラッキンコーヒーは2017年に北京で創業。スターバックスの牙城だった中国市場に、スターバックスとは全く異なる戦略で切り込み、わずか2年後の2019年までには中国国内の店舗数でスターバックスを上回った。その後も勢いは衰えず、2023年には売上高でもスターバックスを抜き、中国市場の最大手コーヒーチェーンとしての地位を確立した。

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最大の特徴は圧倒的な効率化。レジはなく、座席も最小限。利用者はアプリで事前に注文し、店舗では商品を受け取るだけ。

その急成長ぶりからスターバックスと比べられるラッキンコーヒーだが、両者のブランド戦略は対照的だ。スターバックスはサードプレイスという言葉を広めたように、「空間と体験」を売りにしている。無料Wi‑Fiやゆったりできるソファ席など、商品以外の部分での付加価値を重視する。一方のラッキンコーヒーは「価格とスピード」を最優先。大多数の店舗は「受け取りだけ」の小型店舗で、短時間の滞在やテイクアウト式など「利便性」に特化している。

価格差も大きい。香港でのスターバックスのドリンクは45HKD~(約900円~)、ラッキンコーヒーは約30HKD~(約600円~)程度で、割引クーポン使用でさらに安く購入できるケースも多い。物価の高い香港ではこの「低価格」は大きな差別化要因とはなりにくい。だが、香港の忙しいビジネスパーソンにとって、待たずにサッと受け取れる効率の良さがラッキンコーヒーの魅力になっている。

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ラッキンコーヒーといえば、斬新な味付けコーヒーでも注目される。例えば、2023年には中国の高級白酒ブランドとコラボし、「醤香(ジャンシャン)ラテ」というアルコール風味のラテを発売。これは約1億元(約20億円)の売り上げを記録するほどの人気アイテムとなった。お茶を好む消費者にコーヒーを試してもらうため、また若者の嗜好も考慮しつつ、オレンジアメリカーノやスイカラテ、グレープ味アメリカーノなど大胆なフレーバーを展開している。

すでにシンガポール、マレーシアに進出していたラッキンコーヒーは、2025年7月にはアメリカ・ニューヨークにも2店舗をオープン。スターバックスの本拠地アメリカで挑戦を仕掛けた「スターバックス最大の競合」の今後の動きは注目を集めている。

スターバックスとラッキンコーヒーの横並び
スターバックスとラッキンコーヒーの横並び

香港の町を歩けば、スターバックスはもちろん、香港発祥のコーヒーチェーンや独立系コーヒー店など多くのカフェがひしめく。人口密度が高く、顧客の嗜好も多様なこの都市では、単なるコーヒー提供だけでは勝ち残れない。

ラッキンコーヒーが香港に進出したのは2024年12月。それから1年も経たない2025年9月現時点で、筆者の調べでは香港に12店舗を構えている。今回訪れた60席ほどの店舗では、ドリンクを作る4人と注文を確認する1人の5人体制で、作業効率はかなり高そうだ。

世界全体で見ればラッキンコーヒーは約2万6000店舗、スターバックスが約4万1000店舗と、店舗数ではまだスターバックスが優位だ。しかし、ラッキンコーヒーは急速に勢力を拡大し攻勢をかけている。香港で隣り合って並ぶ店舗の構えは、その競争構図を象徴しているように見える。この店舗展開については、ラッキンコーヒーが意図的にスターバックスの隣を狙い直接勝負をしかけていると見る向きもあれば、スターバックスを訪れた潜在顧客をそのまま取り込もうとしていると捉えることもできる。

ラッキンコーヒーの香港進出は次の海外展開へ向けた試金石と見られている。香港は中華圏と国際市場をつなぐ要衝であるだけでなく、国際都市として消費者の目が厳しく、ブランドの実力を試すには絶好の場所であるためだ。

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文・写真=ベック知子 編集=石井節子

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