北米

2025.09.17 11:00

TikTok売却交渉で米中が「枠組み」合意、習近平とトランプの影響力を断ち切れるか

miss.cabul / Shutterstock.com

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中国テック大手バイトダンス傘下のTikTok米国事業売却交渉が、大きな局面を迎えている。表向きの焦点は、中国政府によるデータ収集やプロパガンダなど安全保障上の脅威をどう断ち切るかにある。しかし水面下では、取引を握るトランプ大統領が、巨大な言論空間を自らの影響下に置こうとする権力闘争をも進行させている。問われているのは、習近平とトランプ双方の「停止スイッチ」を切れるかどうかだ。鍵は、バイトダンスのアルゴリズムを切り離すこと、そして米政府が編集権限やデータに介入しない保証である。過去にはバイデン政権が言論統制につながりかねない合意を模索した経緯もあり、今回の取引は米国民主主義の根幹を試す局面となっている。

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トランプ政権が発表、TikTok米国事業の売却で米中が「枠組み」合意

トランプ政権は9月15日、米中両国がある「枠組み」に合意したと発表した。これにより、中国のテック大手バイトダンスは、動画投稿アプリ「TikTok」の米国事業を米国の買い手に売却できることになる。

この取引が成立すれば、TikTokにとって9カ月にわたる不透明な状況が終わることになる。昨年、バイトダンスに「売却か禁止か」を迫る法律が米議会を通過した。にもかかわらず、TikTokはこの間、トランプ大統領の判断によって米国内でのサービスを継続してきた。今回の合意は、米中両国がTikTokに対して前例のない影響力を行使してきた時期の終わりを意味する可能性もある。しかしそれが現実になるかどうかは、政府が取引の詳細を公表するまで明らかにならない。

米中両トップが握る「停止スイッチ」、TikTokを揺るがす政府の圧力

今年1月以降、TikTokの米国でのサービスが維持されてきたのは、トランプと習近平がそれを認めていたからだった。もしトランプが明日、アプリのコンテンツを自らの政治的課題に敵対的と判断すれば、司法省に命じて法律を執行し、アプリを停止させることができる。一方、習近平も法的な手続きを経ることなくバイトダンスに同じことを行える。だからこそ米議会は、バイトダンスにTikTokを売却するよう求めている。

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トランプが所属する米共和党の議員らは以前から、「ジョーボーニング(jawboning)」に懸念を示してきた。これは、政府がSNS企業に対し特定の言論を検閲したり拡散したりするよう圧力をかける行為だ。もしトランプ以外の大統領が同様の行為に及んだなら、事態は違っただろう。仮に別の大統領が、自身に大規模な言論プラットフォームの「停止スイッチ」を与え、その親会社を側近が選んだ買い手に売却させようとすれば、こうした議員たちはもっと声を上げていたはずだ。ただし、このような行いは、民主党であれ共和党であれ、中国共産党であれ、誰が行っても脅威となる。

そして、今回のTikTokの取引では、米国政府がアプリ上の言論を支配する力を持つことになりかねない。この懸念は杞憂ではなく、過去に同様の事態に至りかけた経緯があるからだ。

習近平の影響力を断つため、「For You」アルゴリズムの切り離しが焦点

このリスクを取り払うためには、今回の取引を習近平とトランプ双方のTikTokに対する影響力を断ち切るものにする必要がある。習近平の影響力を排除するためには、TikTokと親会社バイトダンスの関係を完全に切り離し、両者の提携関係を解消する必要がある。TikTokは、バイトダンスの「For You」アルゴリズムを買い取るか、使用を中止しなければならない。このアルゴリズムは、現在アプリのメインフィードを支えている中核機能だ。

19日のトランプ習近平会談の行方

中国政府はこれまで、バイトダンスがアルゴリズムを売却することを許さないと明言してきた。その立場が変わったかどうかは不明だが、19日に予定されているトランプと習近平の会談では、ここが議論の焦点となるのは間違いない。

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翻訳=上田裕資

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