WOMEN

2025.09.17 17:30

メリンダ・フレンチ・ゲイツ、女性特有の健康課題の解決に向け150億円の取り組み

2025年9月10日、「フォーブス・パワー・ウィメンズ・サミット」で講演するメリンダ・フレンチ・ゲイツ(Photo by Taylor Hill/Getty Images)

2025年9月10日、「フォーブス・パワー・ウィメンズ・サミット」で講演するメリンダ・フレンチ・ゲイツ(Photo by Taylor Hill/Getty Images)

米国では女性の健康研究が長らく軽視され、自己免疫疾患や更年期といった課題すら研究費の1%未満にとどまってきた。だが転機となったのは、2022年、米国で約50年ぶりに人工妊娠中絶の権利を覆した「ドブス判決」だ。女性の権利が自分たちの世代よりも後退しかねない現実を前に、メリンダ・フレンチ・ゲイツは1億ドル(約147億円。1ドル=147円換算)を投じ、心血管疾患やメンタルヘルスなど女性特有の健康課題に資金を振り向ける取り組みを始めた。背景には、男女間の格差を解消すれば2040年までに世界GDPへ少なくとも1兆ドル(約147兆円)を上乗せできるという試算もある。社会・経済・政治を揺るがすテーマとして、女性の健康が米国で前面に押し出されている。

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メリンダ・フレンチ・ゲイツが約147億円の提携を発表、女性の健康を前面に押し出す

「私は、女性たちが家庭から職場、そして政府や経済に至るまで、社会のあらゆるレベルで対等な力と影響力を持つようになることを望んでいる。しかし、女性たちが基本的な医療を受けるための勝ち目のない闘いを強いられている限り、その未来への道は開けない」。そう語るのは、メリンダ・フレンチ・ゲイツだ。現在の彼女は慈善活動家であり、Pivotal Ventures(ピボタル・ベンチャーズ)の創設者として行動している。

先に挙げた信念は、彼女の最新の取り組みの原動力といえるものだ。フレンチ・ゲイツは9月10日に開催された「フォーブス・パワー・ウィメンズ・サミット」で、自身が社会の進歩を加速させて女性の力を拡大するために設立したピボタル・ベンチャーズと、レジーナ・デューガンが率いる先端医療組織Wellcome Leap(ウェルカム・リープ)が1億ドル(約147億円)規模のパートナーシップを結んだことを発表した。

心血管疾患やメンタルヘルス、自己免疫疾患を重点に、2026年に新プログラムを始動

両者はそれぞれ5000万ドル(約74億円)を拠出し、女性の健康に関する研究開発を推進する。この共同事業は2026年に始動する2つの新プログラムを資金面で支えるものとなる。心血管疾患、女性のメンタルヘルス、自己免疫疾患といった、女性に甚大な影響を及ぼしてきた一方で、長らく十分な資金が投入されてこなかった領域に焦点を当てている。

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女性特有疾患の研究は約1%、自己免疫疾患の患者の約8割は女性という現実

世界の現状を見れば、その必要性は極めて明白だ。がん以外の分野で女性特有の疾患に焦点を当てた世界の医療研究はわずか1%にすぎない。自己免疫疾患の患者の約8割は女性だが、いまだ治療法は見つかっていない。更年期は人口の半数に影響を及ぼすにもかかわらず、高齢化に関する研究でこれを考慮しているものは1%にも満たない。その結果、女性が人生において不健康な状態で過ごす時間は男性よりも25%長くなっており、その影響は家庭から職場、経済全体にまで及んでいる。

DARPAを率いた初の女性デューガンが推進力、グーグルやフェイスブックで培った実行力を投入

今回の協力が注目される理由は、その規模だけではなく戦略にある。フレンチ・ゲイツは、これまでに10億ドル(約1470億円)以上を世界の女性の力を拡大する取り組みに投じてきた。彼女は、20年以上にわたり多方面の資金と人脈を集め、女性の健康を国際的な課題に押し上げてきた。今回の取り組みは、ピボタル・ベンチャーズにとってこれまでで最も重要な1歩となる。一方、現在ウェルカム・リープのCEOを務めるデューガンは、キャリアを通じてボトルネックを解消し、数十年単位ではなく数年で成果を上げることに取り組んできた。

米国の国防高等研究計画局(DARPA)を率いた初の女性であるデューガンは、その後はグーグルやフェイスブックで先端研究チームを指揮した。政府や科学、テクノロジー分野にまたがるキャリアを積んできた彼女には、この規模の課題に取り組むための経験が備わっている。フレンチ・ゲイツとデューガンは、長らく進歩が停滞していた女性の健康分野が、ついに緊急性を持って追求されるべきだと考えている。

経済的な影響は甚大だ。「男女間の健康格差を解消すれば、2040年までに毎年少なくとも1兆ドル(約147兆円)が世界のGDPに上乗せされると推計されている。女性がより健康であれば、経済や社会により深く関与できるからだ」とフレンチ・ゲイツは語る。

「この1兆ドル(約147兆円)が女性の潜在力に課された“税”だと考えてほしい。働く機会や家庭生活、社会生活を病気や痛み、不安やうつで奪われ、存在しない答えを探すために時間や貯蓄を費やし、医療提供者からは訴えを信じてもらえない。そうした一人ひとりの女性の視点に立って、私たちが失っているものを想像してほしい」と彼女は続けた。

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翻訳=上田裕資

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