2. フクロオオカミ最後の個体は、「ベンジャミン」ではなく「無名のメス」

フクロオオカミは、かつてオーストラリアとニューギニアに広く生息していたが、20世紀半ばに悲劇的な絶滅を遂げた動物だ。
その特徴的な縞模様の背中から「タスマニアタイガー」とも呼ばれる。有袋類だが、有胎盤類であるイヌ科の動物によく似ており、収斂進化(別々に進化した種が似た形質を獲得する現象)の顕著な一例だった。
最後の個体として知られるフクロオオカミの物語は、しばしば誤解に包まれている。「ベンジャミン」という名前が広く知られているが、最近になって見つかった証拠から、最後の個体は、実際には無名のメスであり、歴史的記述によく取り上げられるオスのベンジャミンではないことが確認された。
この無名のメスは、1936年9月7日、タスマニア州ホバートのボーマリス動物園で、飼育下の個体として死亡した。この9月7日という日は現在、オーストラリアで「絶滅危惧種の日」に指定されている。
ただし、1936年にこの無名のメスが死んだ後も、未確認の目撃情報が相次いだため、この種はタスマニア州の辺境の荒野で、もう少し長く生存していたのではないかとの憶測を呼んだ。
国際自然保護連合(IUCN)がフクロオオカミの絶滅を正式に宣言したのは、このメスの死からちょうど50年後の1982年のことだった。
フクロオオカミは、家畜を脅かす存在という誤った認識から、報奨金目当ての狩猟がさかんに行われた。この過酷な迫害に、生息地の破壊や病気の影響が重なり、フクロオオカミの個体数は危険なレベルまで急減していった。
最後のメスが死ぬわずか2カ月前になって、フクロオオカミは保護種に指定されたものの、絶滅を防ぐには、すでに手遅れだった。より決定的な証拠が出てくるまでこの無名のメスは、知られるかぎり最後のフクロオオカミの個体として、同種のエンドリングであり続けるだろう。
エンドリングがなぜ重要なのか
エンドリングについて学ぶことは、種の絶滅という進行中のプロセスに関して、我々を厳しい現実に直面させる。これらの個体は、単なる歴史上の珍しい存在ではない。
エンドリングは、我々が自然界に及ぼす影響力に責任を持とうとしなければ、何を失うことになるかを思い出させる存在だ。「ベンジャミン」のケースのように不確かな時もあるかもしれないが、彼らの物語を理解することで、生命のはかなさと、人間の行動が取り返しのつかない結果をもたらす可能性について、我々は知ることになる。


