経済・社会

2025.09.24 14:15

渋谷の若者が注目した衝撃の現実「ケータイのためにゴリラが殺されてしまう」問題

Shutterstock.com

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「課題解決より、課題発見が大事」「良い問いが、良い答えを生む」この考え方に共感する、リアルな社会問題をいち早く知りたい方への連載「〇〇問題 – 日本NPOセンターが発見した今月の社会課題」。

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著者の日本NPOセンターは、全国5万以上のNPOとのネットワークを生かし、現場の今の課題を常時収集しています。その課題に電通Bチームを中心としたコピーライターが、わかりやすく「〇〇問題」という形で名前をつけてリスト化してきた課題ラボの過去の活動のなかから、毎月ひとつにフォーカスしたコラムを掲載しています。

課題は現場にあり。解きたいと思った課題をみんなで解いていけば、きっと新しい社会が見えてくるはず。


2022年4月の1カ月間、課題ラボはパタゴニア日本支社とTSUTAYA渋谷店の協力のもと、特別展示「課題ラボの課題図書」をTSUTAYA渋谷店で実施しました。テーマは「環境」。パタゴニアが環境助成金プログラムや同社のさまざまな資源を活用して支援する環境NPOとNGOから収集した社会課題を、その理解を深めるきっかけとなる本と合わせて紹介するというもので、好評を博しました。

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TSUTAYA渋谷店で実施された特別展示「課題ラボの課題図書 」の様子
特別展示「課題ラボの課題図書 」

会場では、集めた課題を一枚のパネルにまとめ、来場者に一番気になった課題を選んでもらいました。その結果、渋谷の若者の心を捉え、最も多くの票を集めたのは、「ケータイのためにゴリラが殺されてしまう問題」でした。

来場者が気になる課題にシールを貼ったパネル
来場者が気になる課題にシールを貼ったパネル

ゴリラ殺しの背景に「止まらぬ負の連鎖」

一体なぜ、ケータイのためにゴリラが殺されてしまうのか。理由は、ゴリラが住む地域とある鉱物にあります。

ゴリラは、全種類が国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに掲載されている絶滅危惧種。屈強な見た目とは裏腹に、草食で争いを避ける性質や、人間と似通ったDNAを持つことでも知られています。

中でも現在、推定3000頭~5000頭いるとされるヒガシローランドゴリラは、中央アフリカのコンゴ民主共和国の東部に生息しています。コンゴは世界有数の資源国であり、ヒガシローランドゴリラが住む地域には、スマートフォンなどのモバイル機器に使われるレアメタルの一種、タンタルが豊富に埋蔵されています。一方で、コンゴは世界最貧国のひとつとしても知られ、豊富な天然資源を巡って混乱状態が続き、東部には約130の武装組織が活動しています。

ヒガシローランドゴリラは、これまでも森林伐採や食用にされることで、数を減らしてきましたが、電子機器の発展を背景に、今度はタンタルを採るために殺されるようになったのです。殺されたゴリラは、違法採掘を行う労働者の食料にされる他、生きた子どものゴリラは海外に密輸されるケースもあります。

ヒガシローランドゴリラ
ヒガシローランドゴリラ(Shutterstock.com)

違法に採掘されたタンタルは闇市場で売られて武装組織の資金源になり、紛争激化を招いています。こうした鉱物は「紛争鉱物」と呼ばれ、児童労働などの深刻な人権侵害や地域住民の生計破壊、それによる住民の危険な鉱山労働への依存など、負の連鎖を生んでいます。

米国、EUは紛争鉱物を規制し、OECD(経済協力開発機構)も企業に責任ある鉱物調達を求めるガイダンスを発行していますが、違法に採掘されたタンタルはいまだ電子製品に使われています。

日本ではNPOが、使用済みケータイなどの電子機器を回収してタンタルを取り出し、コンゴの支援活動に役立てる取り組みを試行してきました。2013年には、レアメタルの循環利用につながる小型家電リサイクル法が施行されています。

そうした中、電気通信事業者協会が運営するモバイル・リサイクル・ネットワークの調査(※)では、使用済みケータイの回収は、通信機器としては使わなくなった端末を(データ保存などのために)長期間保管したり、リユース向けの売却といった手段が一般化してきたこともあり、ここ数年、横ばい状態が続いていることが分かっています。

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文=三本 裕子(特定非営利活動法人 日本NPOセンター)

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