マネー

2025.09.17 10:30

AIエージェントが買い物を代行し決済、マスターカードがMCP対応の意欲的な試み

PixieMe / Shutterstock.com

マスターカードの最新の取り組み

マスターカードの最新発表は、これまでの取り組みを拡張する追加機能を加えるものだ。同社は「Agent Toolkit」(エージェント・ツールキット)を導入した。これは、「Model Context Protocol」(MCP、モデル・コンテキスト・プロトコル)サーバーを利用してAPIを機械可読化し、最も普及しているLLMと容易に接続できるようにするものだ。これにより、AI駆動のワークフローに決済を統合する作業が容易になる。

advertisement

ツールキットに加えて「Agent Sign‑Up」(エージェント・サインアップ)システムを用意し、開発者が自らのエージェントをマスターカードのネットワーク上の検証済み参加者として登録できるようにした。パーソナライゼーション機能を付加するため、同社は「Insight Tokens」(インサイト・トークン)を創設し、消費者の同意に基づき、エージェントに対して同社の許諾ベースのデータシグナルへのアクセスを与える。

マスターカードは、銀行、加盟店、AI開発者に対し、これらの機能を製品へ迅速に組み込むためのコンサルティングサービスも提供する。またマスターカードは、FIDO Alliance(FIDOアライアンス)のような標準化団体と緊密に協働し、購入者が「加盟店、商品、取引金額」を承認したことを証明できる検証可能なクレデンシャルを提供する。これは、クレジットカードのチャージバック(支払取消)に関する問題や、購入に対するユーザー同意の証拠提供に利用される。同社は、米国のカード会員が今年のホリデーシーズンまでにエージェント・ペイへアクセスできるようになり、その後にグローバル展開を進めると述べている。

決済業界で広がるAIの波

マスターカードだけがこのエージェント型コマースのビジョンを追っているわけではない。ビザは「インテリジェント・コマース」の名の下で同様のアイデアを検証している。同社は、AIアシスタントが人の常時監督なしに購入を完了できるよう、エージェントをビザのネットワークに直接接続するパイロットを実施してきた。

advertisement

ペイパルはウォレット中心の戦略を取っている。エージェントに自社のデジタルウォレットへの管理されたアクセスを与えることで、ペイパルが使える場所ならどこでも支払いを可能にする。焦点は、仕組みを作り替えるというより、利便性の拡張に置かれている。

ストライプは開発者とスタートアップに対する強みを生かす。同社は、AIエージェントがサブスクリプションの管理、請求書の送付、チェックアウトの完了を行えるAPIを構築している。テクノロジー大手も参入の機会をうかがっている。グーグルやアマゾンは、アシスタントが単に商品を推薦するだけでなく、取引を直接処理できる方法の試験を開始している。この動きを規制当局は厳しく注視するだろう。

こうした状況の中で、「支払いをエージェント体験の中でネイティブ化する」というマスターカードの計画は、より大胆な一歩である。開発者向けツールキットの公開、クレデンシャル標準の策定、そして展開を具体的なタイムラインに結びつけることで、同社は他社が従わざるを得ないルールを定めようとしている。

「支払いはエージェント体験の中でネイティブでなければなりません」とヴォスバーグは説明する。「私たちは、新世代のインテリジェントな取引のためのインフラを構築しています。そこでは、消費者と開発者が、信頼・透明性・正確さを担保しながら、自分たちの代わりに行動するAIエージェントに権限を与えられます」。

マスターカードは、技術だけでなく業界標準にも投資している。エージェントが自律的に行動するのであれば、ネットワークはその行為が有効で、かつ可逆であり続けることを保証しなければならない。

次ページ > エージェント型コマースの課題

翻訳=酒匂寛

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事