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2025.09.12 17:15

「すごい習慣化」で医療費を削減する予防医療サービス

脳卒中や心筋梗塞になると、医療費は一回あたり200〜300万円。人工透析治療が始まると毎年500万円……。こうした医療費を支えるのが、会社員とその家族が加入する健康保険組合だ。ところが、病気治療の要となる健保組合は、財政難から解散に追い込まれるケースが増加している。高齢化や医療の高度化が原因とされているが、健康保険加入者における医療費利用の偏りは大きく、医療費の大半は実は2割の組合員に偏っていることがわかった。
では、この2割の組合員を病気にさせないようにするにはどうしたらいいのか。その解決方法として「行動変容」を起こすスタートアップが登場した。

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「行動変容」を軸とした重症化予防プログラム

健保組合における総額医療費の約8割を利用している医療費上位2割の“ハイリスク層”にスポットを当てた予防医療サービスを展開しているのが、名古屋大学発のスタートアップ「PREVENT」だ。

「来週の採血検査が心配だから、お酒を控えなければ」

ある健保組合員が、PREVENTの医療専門職との定期面談の中で口にした言葉だ。自ら“変わりたい”という意思からの発信。これをPREVENTでは“チェンジトーク”と呼ぶ。

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「我々のサービスの核に据えるのが『行動変容』です。対象者自身からこうした言葉を引き出すことが、行動変容の起点になります。設定ゴールはお酒をやめることですが、“控えてください”とこちらから押し付けるのではなく、自ら言語化するからこそ、行動に移しやすいのです」と語るのはPREVENTの代表取締役で理学療法士の萩原悠太だ。

同社は、健保組合のハイリスク層の重症化予防プログラムを作成、提供している。看護師、理学療法士、管理栄養士、保健師といった医療専門職が、対象者のアセスメントを行い、健保組合が収集する健康診断データや医療費の明細を分析、評価した上で、6カ月にわたるパーソナライズされたプログラムを作成。一人ひとりに合った改善策を提示する。その後は電話やチャットを介した個別のコミュニケーションをとりながら、アプリを使ったオンライン上での健康づくりを支援している。

現在、190ほどの健保組合がPREVENTのサービスを契約し、年間約2500人のハイリスク層が指導を受けている。彼らは通院して服薬指導を受けるケースが多く、ある程度薬でリスクを低減することは可能だ。しかしそもそも服薬を忘れてしまったり、重症疾患発症後も自宅に戻ればいつもの生活になってしまったり、いわゆる薬の処方だけでは、疾病の重症化を抑えられない“残余リスク”が存在する。そこで生活習慣の改善や本人の疾病管理のスキルを上げていくことが、このリスクを限りなくゼロに近づけていくためには必要だと考える。

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文=真下智子

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