医療専門職の働き方も変える
PREVENTの事業基盤を支えているのは、親会社の住友生命だ。萩原は、理学療法士として病院勤務を経験したのち、予防医療の研究者を目指して大学に戻る。しかし担当教授から「研究より事業として取り組むべき」と背中を押され、PREVENTを立ち上げる。2021年に住友生命のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)ファンドから出資を受けて業務提携。2023年には同グループ初のCVCファンドからの完全子会社となる。現在では住友生命の中核子会社として急成長を遂げている。
安定した経営基盤の確保はもちろん、住友生命の顧客への営業チャネルの拡大。さらにPREVENTが対象としている2割のハイリスク層と、住友生命が担う残り8割のポピュレーション層の棲み分けが可能となる。「財政健全化を狙う健保にとっても、健康増進のためのウエルビーイング戦略を進める住友生命にとっても、大きなメリットがある」と萩原。

創業10年目を迎え、現在40名の医療専門職スタッフを抱える。全員が正社員だ。ハイリスク層がターゲットのため、知識やコミュニケーションスキルなど、スタッフのクオリティコントロールのためにはフルタイム勤務が必須となるからだ。しかし、驚くべきことに、その多くがフルリモート勤務だ。病院に出勤し、定時まで勤務するのが当たり前という医療業界において、画期的と言える。この働き方により、地方在住者や子育て中の女性など、従来の勤務体制ではキャリアの継続が難しかった人でも活躍できる環境を整えている。また、専門性を活かそうと思うと、医療機関などでの勤務しか選択肢がなかったが、地方などで専門性を活かせる医療機関がない場合なども、PREVENTが受け皿となっている。
採用時には、疾病に関する専門知識を重視するものの、入社後の研修では行動変容を導くコミュニケーション力を徹底的に鍛え、ロールプレイングを繰り返し行う。いかにチェンジトークを多く引き出せるかがプログラムを進めていく上で最重要課題となるからだ。このチェンジトークを引き出すスキルを体系化することで、対面ではなくリモートでの限られた情報からでも、かなりの高精度で仮説(臨床推論)を立てることも可能だという。
“一病息災”の社会を目指して
今後の展開について萩原はこう語る。
「理想は無病息災ですが、病気になったからといって、人生ゲームオーバーかといえばそうではありません。我々は“一病息災”というミッションを掲げ、慢性疾患を抱えていても、病気とうまく付き合いながら、生きていける社会を作りたいと思っています。現在は企業の健保向けのサービスのみですが、今後は地方自治体の国民健康保険や生命保険会社、さらに一般消費者向けへとチャネルを広げていく予定です。また、生活習慣病だけにとどまらず、メンタル疾患やがん、腰痛など、さまざまな慢性疾患にも対応したプログラムを提供していきたいと考えています」。
人生100年時代とはいえ、健康あってこその100年を誰もが願う。不摂生な生活を自省しても、自ら行動を変えることはなかなか難しい。「行動変容」を通じて、思考が変わり、行動が変わり、体が変わり、引いては社会そのものも健やかになる。PREVENTの挑戦は医療の新しい未来を描き出していると言えそうだ。


