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2025.09.22 11:00

国内最大級の動物病院グループが誕生──M&Aが拓いた持続可能な仕組みとは

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獣医師や医療スタッフの不足、加速する業界再編──今、動物病院業界は大きな転換点を迎えている。こうした状況に危機感を抱き、未来に向けて動き出したのが、兵庫・宮城・茨城で地域医療を支えてきた3つの動物病院だ。

2024年、エルザ動物病院グループ(兵庫)、ウイル動物病院グループ(宮城)、アイ動物医療センターグループ(茨城)は、それぞれが培ってきた信頼と専門性を継承するため、経営統合を決断。その挑戦を支えたM&Aコンサルのオンデックと共に、新たな動物医療モデルの構築に挑む舞台裏に迫る。


兵庫県内で動物病院を運営するエルザクライスで、代表取締役社長を務める長谷宜勇(以下、長谷)は、動物医療業界の現状について次のように話す。

「動物病院は、獣医師自身が『自分で動物を診たい』『技術を高めたい』という思いで立ち上げ、獣医師がトップのまま規模が大きくなるというケースが大半を占めてきました。結果、経営を体系的に学んだ人は少なく、業界全体として経営不在の状況が長く続いています」(長谷)

長谷は獣医師ではなく元銀行員・元監査法人勤務という、動物病院業界では異例のキャリアをもつ。MBAと公認会計士資格を有する数少ない経営の専門家であり、獣医師の両親をもつ二代目だ。故に、独自の視点から業界を俯瞰することができる。

「これまでは、資格を有する人以外は参入できないという業界の特性や、増え続けるペット需要に支えられ、現状のままで経営を続けることができました。しかし近年では犬の飼育頭数が急速に減少しており、同時に人口減少による人材不足や労務管理の厳格化も重なり、経営の難易度が上がってきているのが実情です」(長谷)

さらに深刻なのが事業承継の問題だ。
「ペットオーナーの信頼を集めて規模を拡大しても、次世代への承継は困難を伴います。人材の確保や経営の維持といった重い責任を背負いきれず、承継そのものが負担となってしまうことも現実に起きている。後継者不足は今や業界全体の大きな課題です」(長谷)

経営と理念のはざまで
統合という決断の背景

加速する業界再編の動きも、長谷が危機感を募らせる要因のひとつだった。
「たとえば、米国大手のVCA Animal Hospitalsが日本市場に参入して事業承継の受け皿となったり、投資ファンドの関与を経て日本高度動物医療センターやWolves Handが株式上場を果たすなど、業界の構造は大きく変わりつつあります。この流れでは、資本力を有する大手動物病院グループが、労働環境や待遇、教育環境などを整備していくことで、動物医療に携わろうとする人材の就職先として第一候補になるのは明らかです。人材は大都市圏や大資本の病院に吸い寄せられ、地方や中小規模の病院にはますます人材が集まりにくくなるでしょう」(長谷)

Japan Animal Care Holdings 取締役・エルザクライス代表取締役社長 長谷宜勇
Japan Animal Care Holdings 取締役・エルザクライス代表取締役社長 長谷宜勇

こうした課題に対応するため、長谷が打ち出したのは、自院と同規模の動物病院との経営統合による一大動物病院グループの構築だった。さらに、迫りくる業界再編の波に乗り遅れないよう、経営ノウハウを備えたPE(プライベート・エクイティ)ファンドを巻き込み、M&Aを推し進める構想を描いた。

声をかけたのは、かねてから交流のあった宮城県のウイル動物病院グループと茨城県のアイ動物医療センターグループだった。いずれも獣医師ではない二世経営者が病院経営を担っており、再編の荒波を前に「いま動かなければ未来はひらけない」という強い危機感を抱いていた。「この3社なら実現できる」。その確信が、長谷の背中を大きく押した。

異なる文化をすり合わせ
対等な統合を実現したM&A

M&Aにおいて、3社統合は非常に難しいとされる。今回のケースも例外ではなかった。
例えば「上場を最終ゴールとするのか、それともあくまで手段とするのか」「統合後の議決権をどう配分するのか」といった細部で、意見が食い違うのは至極当然のことだ。そんな折、長谷はM&Aアドバイザリーのオンデックと出会う。

「統合の方向性は固まりつつあったのですが、本当にこの進め方で良いのか疑問がありました。そこで知人の経営コンサルタントから紹介を受け、当初はセカンドオピニオンという位置づけでオンデックさんにお会いすることになりました。実際に話してみると、こちらの立場で考えてくれる姿勢を強く感じ、過去には依頼主の利益にならないと判断すれば、あえて成約を遅らせたこともあると聞いて、信頼できる相手だと確信しました」(長谷)

オンデックは、異業種において同様の3社統合案件を成功に導いてきた実績もある。複雑な利害調整が絡む統合において、どのように論点を整理し、合意形成へ導くか。その経験値が、今回も存分に発揮されることになる。

同社代表取締役社長の久保良介(以下、久保)は、当時をこう振り返る。
「まず危機感を感じたのは、IPOを目指すという前提があるにも関わらず、多くの助言会社らが、できる限り高値で株式を売る提案をしてきていることでした。このままでは“のれん代(買収額と実際の資産価値の差額)”が過大になってしまう。のれん代は将来の利益で回収しなければならず、回収できなければ減損リスクを抱える。加えて、いわゆるLBOローンの活用を前提に高値が提案されているため、結果としてグループ自らが大きな負債を抱える形になる。過大なのれん、過大な負債は、IPO審査時にネガティブに評価されやすく、IPOの実現自体に悪影響を及ぼしかねない。これは非常に本末転倒な話。そこで私はあえて逆張りの提案をしました」(久保)

他のM&Aアドバイザリー会社が少しでも高く売ることを勧めるなか、オンデックの提案は異彩を放った。最終的に、3社は満場一致で、オンデックをセカンドオピニオンではなく、メインのアドバイザーとして起用することを決定する。長谷は「その時点での高値での売却ではなく、未来の成長につながる道筋を重視してくれた」と振り返る。

統合にあたり最大の課題となったのは、3社それぞれの立場や思いをどうすり合わせ、対等な関係を築くかという点だった。長谷は「オンデックがいなければプロジェクトは破綻していた」と断言する。

「M&Aでは通常、私たちコンサルタントは売り手と買い手の意図を『翻訳』する役割を担いますが、今回は3者間の橋渡しが必要で、難易度が高かった。誤解を避け、本質を理解してもらうには、合理性を強調するだけでは不十分です。

特に事業への思い入れの強い経営者には、対面で熱を持って語ることで初めて意図が伝わることが多い。メールや電話で『分かった』と言われても、本当に腑に落ちているかは分からない。だからこそ私たちは、疑問を抱えているだろうと察すれば、幾度となく現場に足を運び、対面で本音を聞き出す。非効率に見えるかもしれませんが、そうして初めて本当の合意形成ができるのです」(久保)

オンデック代表取締役社長 久保良介
オンデック代表取締役社長 久保良介

3社対等の経営統合が実現できた背景には、未来を見据えたスキーム設計、そしてオンデックが積み重ねてきた「3社統合の経験値」が大きな役割を果たしたことは言うまでもない。

上場がもたらす社会的インパクトと
業界変革の可能性

こうして3社は、PEファンドであるインテグラルの資本参加を得て、現在の持株会社Japan Animal Care Holdingsを設立。約120名の獣医師を含む総勢約550名のスタッフを擁する、国内最大級の動物病院グループが誕生した。グループはまず数年後の上場を目標に掲げる。

「上場は資金調達のためだけではありません。動物病院で働く価値を社会に認めてもらい、次世代へつなぐための通過点と考えています」(長谷)

動物医療の現場は、志ある獣医師や動物思いの動物看護師を中心とした動物医療従事者たちに支えられてきた。一方で、今なお厳しい労働環境に置かれるケースも少なくない。賃金水準や労働条件には病院ごとに大きな差があり、長時間労働が常態化しているところもある。上場によりガバナンスや情報開示が義務化されれば、給与・勤務時間・福利厚生が“見える化”され、人材が安心して働ける環境が整う。こうした改善の積み重ねが獣医療従事者の社会的地位の向上につながり、優秀な人材が地方や小規模病院にも循環していくことが期待できると、長谷は考えている。

上場企業としての信用は、ペットオーナーにとっても大きな安心材料となる。さらに、資金力や組織力を背景に、高度医療機器の導入や専門医の拡充など、単独病院では難しい取り組みも実現できる。

Japan Animal Care Holdingsは、上場を視野に売上を現在の70億円から200億円超へ拡大させる計画を掲げている。これと並行して、経営基盤の整備も着々と進めている。本社機能や全社で統一すべきものは親会社で決定しつつも、既存オーナーたちが培ってきた文化や地域性は大切に残す方針で、アメリカ合衆国の連邦制(大統領府と州知事の関係)のようなイメージを掲げていると長谷は話す。まずは本社に経理・労務・IT・マーケティングなどを集約し、現場は診療に専念できる体制構築を目指していく。

長谷は「知識や経験は属人化させず、グループ全体の資産として循環させる」と力を込める。統合の輪はさらに広がり、愛知県のダイゴペットクリニックと埼玉県の長谷川動物病院の2院が参加。今後も理念を共有する仲間を迎え、日本発の動物医療モデルを築いていくという。

オンデックは今後も、Japan Animal Care Holdingsの発展に向け、サポートを続けていく。また動物病院を含む、中小企業の再編に力を注いでいくと久保は意気込む。

「近年M&Aの件数は増えていますが、その多くは『時間を買う』といった短期的な目的にとどまり、業界の未来像を見据えたものは少ないのが現状です。大企業では再編のニュースを耳にする機会が多い一方で、中小企業の世界では自ら業界を変革しようとする経営層はまだ限られています。だからこそ、私たちが主体となって再編を仕掛けていく必要があると考えています。応援すべきプレーヤーがいる業界では、こちらから積極的に提案し、統合を通じて新しい未来をつくっていきたいと考えています」(久保)

業界の常識を塗り替える取り組みは、まだ道半ばだ。だが、志を同じくする仲間と共に歩むことで、動物医療の持続可能なモデルは着実に形を成しつつある。そこから生まれる新しい価値が次世代へと受け継がれ、動物医療の未来を切り拓いていくことだろう。


はせ・よしお◎Japan Animal Care Holdings取締役、エルザクライス代表取締役、日本動物病院マネジメント協会理事。東京大学経済学部卒業後、みずほ銀行、有限責任監査法人トーマツ、グロービス経営大学院を経て、エルザクライス代表取締役に就任。現在に至る。

くぼ・りょうすけ◎オンデック代表取締役社長、一般社団法人M&A支援機関協会理事。1999年に関西大学商学部卒業後、JCB入社。2005年オンデックを創業、2007年より現職。

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