映画史に刻まれる天才オーソン・ウェルズ。その彼が映画『市民ケーン』(1941年)を超える作品と信じながらも、製作会社の判断で40分以上を削除され、結末も変更された「幻の映画」がある。『偉大なるアンバーソン家の人々』(1942年)だ。破棄されたフィルムは80年間発見されず、復元は映画ファンの夢物語とされてきた。しかし今、生成AIがその夢を現実のものにしようとしている。ハリウッドで脅威ともされるこの技術が、失われた「映画遺産」の復活に挑む。
AIで蘇るウェルズの幻の傑作、『偉大なるアンバーソン家の人々』復元計画
第82回ヴェネツィア国際映画祭で、映像制作分野の起業家エドワード・サーチが設立したShowrunner(ショーランナー)が、これまでで最も野心的なプロジェクトを発表した。同社はサンフランシスコに拠点を置くスタートアップだ。新たな人工知能(AI)モデル群「FILM-1」を使い、映画史上最も有名な失われた作品の1つ、オーソン・ウェルズの『偉大なるアンバーソン家の人々』で欠落した43分間の再現に挑む。この映画は、映画史上最も有名な失われた作品の1つとされる。
自称AI版ネットフリックス、ショーランナーが実写的な物語表現に挑戦
このプロジェクトはShowrunnerにとって新たな挑戦を意味する。Fable Studioとして始動した同社は、アニメーションやプロンプトベースの短編動画で実験を重ねた後に、自らを「ネットフリックスのAI版」と称して、ユーザーがAIを使って番組を制作し、視聴できるサブスクリプションサービスを運営している。
このサービスは、初期のデモの『サウスパーク』の非公式エピソードなどで数千万回の視聴を集め、生成AI動画の破壊的なポテンシャルを提示した。FILM-1は、これまでの短編アニメ風の風刺を超えて、実写的な物語表現に踏み出そうとする試みであり、その最初の試金石が『アンバーソン家』だ。
『市民ケーン』を超えたはずの傑作、製作会社が40分超の削除と結末変更
Showrunnerがウェルズの作品を選んだのは偶然ではない。大ヒット作の『市民ケーン』に続いてウェルズは、裕福な米中西部の一家が時代の変化の中で没落していく過程を描いた歴史ドラマに取り組んだ。しかしこの映画を暗すぎると判断した製作会社のRKOは、40分以上を削除し、結末を楽観的に撮り直し、切り取った映像を破棄した。
ウェルズは後に「もし私が『偉大なるアンバーソン家の人々』を思い通りに完成できていれば、『市民ケーン』より偉大な映画になっていただろう」と語った。しかし、改変を受けても、この作品は高く評価され、『Sight & Sound』誌の批評家投票で「史上最高の映画」に数えられていた。
AI導入以前の地道な探求、研究者ブライアン・ローズの5年間にわたる執念
この作品の再構築の試みは、長年にわたり映画ファンを魅了してきた。アーカイブ専門家やジャーナリストたちは失われたリールを求めて奔走し、ウェルズが編集の時期に滞在していたブラジルにまで足を運んだが、発見には至らなかった。今回ヴェネツィアでの発表にあたり、Showrunnerはブライアン・ローズと提携した。彼はウェルズのメモやセット写真、製作記録を手掛かりに、5年間を費やして映画の再構築に取り組んできた研究者であり映画作家だ。
全73シーンのうち、無傷で残ったのはわずか13シーンだった。ローズは3万フレームを復元し、物理的なセットを3Dで再現した。さらにウェルズの記録に基づき、カメラの動きをマッピングした。「これらの変更はすべてウェルズの承認なしで行われたが、ウェルズのオリジナル版を観たわずかな人々は、それが人生で観た中で最高の映画だと信じていた」とローズは語っている。



