顔の転写から声の生成まで、AIモデルFILM-1が担う具体的な復元手法
Showrunnerの課題は、ローズが積み上げた緻密な下準備をAIで拡張することだ。同社によれば、FILM-1はキーフレームを生成し、カメラの軌道を再現する。さらに残されたセット写真をもとに、失われた空間を復元する。一部のシークエンスでは実際の俳優を起用し、AIによる顔の転写やポーズの転写を用いて当時の演技を近似する。音声は、俳優による朗読とAI音声を組み合わせて生成する。
Showrunnerはまた、VFXの専門家トム・クライブが加わることも発表した。彼はかつてハリウッドのVFXスタートアップMetaphysicに所属していた。クライブはAI映画作家として自身の作品を手がけると同時に、『偉大なるアンバーソン家の人々』の再構築にも貢献する予定だ。Metaphysicは、顔の入れ替えや若返り表現を手がけた実績がある。たとえば、ロバート・ゼメキス監督の『HERE 時を越えて』、フェデ・アルバレス監督の『エイリアン:ロムルス』がそうだ。その技術は、今回の再現作業の要件にも合致している。
AIは敵か味方か、ハリウッドの論争に投じるショーランナーの建設的な一手
Showrunner創業者のサーチは、このプロジェクトが非商業的なもので、学術的かつ研究的な試みであると強調する。映画の権利はワーナー・ブラザースと、最近RKOを買収したConcordが保有している。再構築版は2027年頃に学術的・アーカイブ的な場で発表する計画という。「43分を商業化することが目的ではない」とサーチは語る。
「これはワーナー・ブラザースとRKOの知的財産であり、商業化する意図は全くない。我々の関心は純粋に学術的であり、学術的な文脈以外で公開することはない。目標は、80年間にわたり『オリジナル版なら史上最高の映画だったのではないか』と議論されてきた43分間を、この世界に蘇らせることだ」。
この発表は、制作現場におけるAIの役割をめぐってハリウッドが議論を続ける最中に行われた。AIはエンタメ業界で労働争議や訴訟を招いてきた。しかし失われた名作を題材に選んだShowrunnerは、脅威ではなく建設的な活用例を提示しようとしている。「人々はよく『AI版の市民ケーンはいつ現れるのか』と尋ねる。しかしAI版の市民ケーンとは、派手なVFXを駆使した新作ではなく、映画界の至宝とも呼ばれる作品を丹念に再構築すること自体なのかもしれない」とサーチは述べている。
「人生最高のシーンが失われた」、ウェルズの無念をAIは晴らせるのか
ウェルズ自身の言葉も時を越えて響いている。彼は、ジョセフ・コットンとアグネス・ムーアヘッドが共演した失われた最後のシーンを「自分が撮った中で最高の場面だ。人生で最高のシーンだ。それが失われてしまった」と語っていた。そのシーンが、AIによって蘇ろうとしている。


