その昔、北アメリカの広大な平原には、おそるべき捕食者が君臨していた。「ボーンクラッシング・ドッグ(骨を砕くイヌ)」の異名をとるボロファグス亜科に属する、エピキオン・ヘイデニ(Epicyon haydeni)だ。この動物は、並大抵のイヌ科動物ではなかった。
エピキオン(Epicyon)という名は、ギリシャ語で「イヌ以上(epi-cyon)」を意味する。この名は、この動物の見事な体格に、いかにもふさわしい。この巨大なイヌ科動物は、大きいもので体長2.4mに達し、体重は170kgにもなった。この動物を前にしたら、現生のオオカミも小さく見える。
科学研究によると、エピキオンの生息していた年代は、およそ1200万~600万年前の中新世中期~後期とされる。北アメリカ陸生哺乳類年代区分(NALMA)でいうと、クラレンドニアン期からヘンフィリアン期初期にかけてだ。
エピキオンとその近縁種は、メガファウナ(巨大動物相)の支配する世界で繁栄し、捕食者の階層において重要な役割を担っていた。比肩するもののない顎の力と、たくましい体格をもつエピキオンには、ライバルがほとんどいなかった。
この巨獣の最終的な衰退は、ある進化の物語を伝えている。そこから見えてくるのは、先史時代の北アメリカをつくりかえた競争と風景の変化だ。
史上最大のイヌ科動物として栄えたエピキオン
史上最大級のイヌ科動物であるエピキオンは、中新世の北アメリカにおける捕食者の階層で、重要な役割を果たしていた。目覚ましい大きさと、強力な力のおかげで、捕食と腐肉食の両方において優位に立ち、小型の競争相手にはなかなか手を出せない食物源を利用できた可能性が高い。
エピキオンは、堂々たる体格のほか、現生のイヌ科動物とは異なる、一連の独特な適応形質も備えていた。頭骨を見ると、額がドーム状になっており、吻部が短くなっていたことがわかる。この特徴は機能上、オオカミよりもハイエナに近い。こうした適応により、現生のハイエナと同様に、骨を噛み砕くことができた。それでも、エピキオンの頭骨の全体的な構造は、明らかにイヌ科の特徴を保っている(ハイエナは、イヌ科ではなくハイエナ科に属する)。
頭蓋がこのように強化されていたおかげで、負荷を効率よく頭骨全体に分散できたため、噛む力が強力で、獲物の骨髄を抽出できた。こうした骨を砕く能力ゆえに、エピキオンはハンターにもスカベンジャー(清掃動物)にもなり、栄養豊富な食物源を利用できた可能性が高い。
どのような狩りの戦略を使っていたのか、その正確なところはいまだに不明だが、がっしりした肢と筋骨たくましい体格からは、持久走よりもパワーを生かす戦略に最適なつくりだったことがうかがえる。現生のオオカミでよく見られる長距離の追跡ではなく、瞬発的な短距離のスピードや、待ち伏せの戦術に頼っていたのかもしれない。
「超肉食動物(食べる物の70%以上を肉が占める動物)」であるエピキオンは、主に肉を食べ、当時の北アメリカを歩きまわっていた多種多様な植物食の哺乳類を獲物にしていた。骨を砕いて食べる能力は、骨髄を利用できるという点で利点になっていたと考えられる。骨髄は、中新世のほかの大型捕食者やスカベンジャーも利用していた食物源だ。



