「新築は中古より高い」――米国の住宅市場で半世紀にわたるこの常識が、崩れ始めている。FRB(米連邦準備制度理事会)が過去に行った急激な利上げの影響で金利が6%を超え、中古物件の供給不足を招いているのだ。かつての4%前後の低金利ローンに縛られた所有者らは物件を市場に出さず、「売り手不在」の状況が続く。一方、大手デベロッパーはパンデミック期に供給しすぎた新築在庫を抱え、販売インセンティブや値下げを迫られている。この需給の歪みが、価格逆転現象を生み出している背景だ。
新築が中古より約9%安い――半世紀で稀に見る価格逆転の深層
今年6月のデータによると中古住宅の価格の中央値が44万1500ドル(約6500万円。1ドル=147円換算)だったのに対して、新築住宅の中央値は40万1800ドル(約5940万円)にとどまっていた。1968年以降の690カ月のうち、新築が中古を下回ったのはわずか22カ月しかなかった。1982年6月から2024年5月までの間で同じ現象が起きたのはわずか2カ月であり、1990年代には一度も起きていなかった。
しかし、2024年5月以降では、すでに7回もこの逆転現象が発生し、直近の4月から6月までは3カ月連続で続いていた。さらに、6月の新築住宅は中古よりも平均で9%も安く販売されており、これまでの最大の差の3%を大きく上回った。
この異例の差を前に、エコノミストたちはまず「見落としている要素は何か」と背景要因を探ろうとしている。住宅市場の分析と予測を手がけるVeros Real Estate Solutionsの主任エコノミスト、エリック・フォックスは「グラフが理解できない時は、たいていその裏に要因がある」と語る。つまり、背後にある事情を調べてみれば、それらの数字はさほど不思議なものではなくなるのだ。
最初に重要なのは、まず具体例を見て、状況を把握することだ。不動産仲介業者のケビン・ワイングラーテン(52)は現在、ペンシルベニア州チャルフォントにある新築タウンハウスの売買契約を結んだ顧客を抱えている。この物件はベッドルーム3室とバスルーム2.5室を備え、契約額は62万ドル(約9100万円)だった。
この物件はフィラデルフィア中心部からルート611で約30マイル、車で45分の距離にある。決して近くはないが、通勤には許容範囲だ。また、ニューヨーク市へ向かうNJトランジット鉄道の最寄り駅のトレントンからは遠く、ニューヨークへの長距離通勤者が集まるエリアから外れているため価格が比較的抑えられている。
Foxlane Homesが建設した約186平方メートルのこの物件は、人気のオープンキッチンとリビングを備えている。さらに、同社の住宅ローンや登記会社を利用すれば、ウッドデッキと仕上げ済みの地下室をサービスで付けてくれる。豪華な家ではなく、標準的なキャビネットや床材で、必要ならアップグレードできる仕様だが、新しく清潔で、ファミリーに人気のセントラル・バックス学区内にある。



