北米

2025.09.11 08:00

米住宅市場に異変、中古価格が新築を上回る逆転現象――高金利と在庫過多

Bet_Noire / Getty Images

中古住宅が市場から消えた――低金利ローンが引き起こす供給不足

「建設業者はパンデミックの時期に家を建てすぎた」と、Redfinの主任エコノミストのダリル・フェアウェザーは語る。2011年から2022年に住宅を購入した人々は、多くが4%前後という今より低金利のローンを組んでおり、売る必要がない。しかし、新たに家を建てた業者にはそんな余裕はなく、在庫をさばくために値下げやインセンティブを提示して、現在の6%以上という高金利でも買う顧客に売らなければならない。この高金利は、インフレ抑制のためにFRB(米連邦準備制度理事会)が進めてきた急激な利上げに起因するものだ。そのため建設業者は、個人の売り手よりも価格に柔軟になる。

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全米不動産業者協会(NAR)の主任エコノミスト、ローレンス・ユンによれば、中古住宅のオーナーの資産価値は、パンデミック前と比べて49%上昇したという。この資産価値の上昇と、4%未満の低金利のローンが、彼らを住宅の売り出しから遠ざけている。その結果、中古住宅の供給は絞られており、ユンによれば、今年6月の中古住宅の在庫は約4カ月分だったが、新築住宅の在庫はその2倍以上に達していた。

そのため在庫過多に直面した建設業者は、販売戦略を調整せざるを得なかった。彼らは、インセンティブを増やし、価格を引き下げる。しかし一方で、安いローンに縛られた既存のオーナーは動かない。この奇妙な価格逆転は、その副産物なのだ。

購入者の年齢中央値は31歳から56歳へ、高齢化で平屋志向が強まる

そして、この背景には、住宅購入者の年齢層の変化も挙げられるとVerosのフォックスは指摘する。

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1981年の住宅購入者の年齢の中央値は31歳だったが、現在は56歳にまで上昇している。この変化によって、求められる住宅のタイプも変わる。50代や60代の購入者は住まいを小さくする準備はできていても、小さな区画に建てられた3階建ての家を望んではいない。建設業者は狭い敷地に家を建てる場合に階段を増やすからだ。多くの高齢の購入者は、広い庭を持つ平屋建てを好む。つまり、こうして中古住宅の魅力が増している。

上位10社で市場の4割超を占有、大手への集中が価格戦略を動かす

また、もう1つの要因としては、建設会社の動向が挙げられる。Verosの主任研究エコノミストのリーナ・アグラワルは、全国規模の大手の建設会社の方が、小規模業者に比べて価格を引き下げたりインセンティブを提示したりする余地が大きいと指摘する。そして実際に、市場では大手が有利になっている。

NAHBによれば、2024年に販売された新築一戸建て住宅に、業界の上位10社が占める割合は過去最高の44.7%に達していた。これは、1989年の8.7%、2018年の31.5%から大きく上昇している。この集中化によって、中央値の価格は地元の小規模業者ではなく、大量供給を行う大手企業の動向を反映するようになった。そして大手には、中小にはできない条件を提示する余力がある。

価格の逆転現象はあと1〜2年続く可能性との見通し

こうした大手主導の市場構造の変化を背景に、この「新築物件と中古の価格の逆転現象」は、少なくとも当面は続く見通しだ。建設業者は今もなお在庫を抱えており、供給可能月数で見ると9.2カ月分と、1963年以来の平均を3カ月以上も上回っている。業者は今後もインセンティブを提供し続け、新築住宅はさらに小型化する見通しだ。エコノミストたちは、この状況があと1〜2年は続く可能性があるとみている。

ただし時間がたてば、現在の新築物件もやがて中古になる時期を迎える。住宅のサイズがこれ以上縮小し続けない限り、価格差はやがて収束するはずだ。

「建設業者たちは現在、調整する強い動機を持っているが、在庫を一掃すれば再び高い価格を設定できるようになる」とフォックスは言う。つまりここが重要な点だ。新築の家が中古より安い状況が、今後も長続きすることはあり得ない。新築には当然その価値があるのだ。ただし、現状の奇妙な価格の逆転は、供給がどこから生まれているのか、そして建設業者が市場をどう変えようとしているのかを示すサインとして、今注目に値する。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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