北米

2025.09.11 08:00

米住宅市場に異変、中古価格が新築を上回る逆転現象――高金利と在庫過多

Bet_Noire / Getty Images

買い手の嗜好は変わらない――ではなぜ価格は逆転したのか

ワイングラーテンは、13年間にわたってフィラデルフィア郊外で住宅販売を続け、この市場を熟知している人物だ。建設会社のプロジェクトマネージャー経験を持つ彼によれば、チャルフォント周辺で似たような中古のタウンハウスを見つけるのはほとんど不可能だという。中古は新築よりも10〜15%安く売られることもあるが、そもそも供給が極端に少なく、在庫が逼迫しているからだ。

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こうした状況は当然の帰結でもある。同じ条件なら、中古住宅に比べて新築住宅の方が高値になるのが普通だ。新品の調理台や最新の家電、塗りたての壁、そして中古特有のカーペットの染みやカビ臭さもない新築住宅は、割高でも売れるのだ。

つまり、家の買い手の好みが突然「新築より中古」に傾いたわけではない。ワイングラーテンのような仲介業者もその傾向を認めていない。では、この異常な統計は何が原因なのだろうか。

それを知るための最初の手がかりは、建築業界の動向にある。

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6割の業者がインセンティブを提供、統計に表れない実質値下げ

全米住宅建設業者協会(NAHB)によると、2024年6月以降、住宅建設業者の60%が販売インセンティブを使い、30%は価格を引き下げていた。インセンティブとは、金利の引き下げや契約手続きなどのクロージングコストの補助、あるいは無償のアップグレードなどを指す。名目価格を変えずに実質負担を下げる仕組みだ。

一方、中古住宅の売り手も譲歩はしてはいるが、その頻度は低い。オンライン不動産仲介大手のRedfinによれば、2025年第1四半期の住宅取引で、修繕費やクロージングコストなどの何らかの費用を負担した売り手の割合は約40%だった。こうした譲歩は中古住宅で顕著だが、新築住宅でも同じことが起きている。つまり、新築住宅の販売価格の中央値は実際の割引幅を正確に反映していない。多くの譲歩は統計には表れないため、実際の値引きは数字以上に大きいのだ。

しかし、こうした譲歩は大手住宅業者の業績に大きな悪影響を与えていない。

米国株式市場で住宅建設大手のレナーやNVRなどに投資するETFの「SPDR S&PホームビルダーETF」は、年初から12%上昇しており、S&P500の上昇率の10%を上回っている。つまり上場している建設会社は、譲歩を行っていても利益を確保している。

ただし、その多くは粗利益率が縮小している。時価総額が53億ドル(約7791億円)のメリテージ・ホームズの粗利益率は、2022年の29%から昨年は25%に下がった。同様に、時価総額228億ドル(約3.3兆円)のNVRの粗利益率は、2022年以降に2ポイント低下した。KBホーム(同42億ドル[約6174億円])とレナー(同333億ドル(約4.9兆円))のこの指標も、同期間にそれぞれ3ポイントと5ポイント低下している。

住宅は小型化へ、平均面積は37平方メートル縮小し価格を抑制

この利幅の減少は、建設業者がより小規模な住宅に注力していることが一因だと考えられる。小さい住宅であれば、同じ区画の土地により多くの戸数を確保できるからだ。

新築住宅の平均面積は2015年のピーク時に約254平方メートルだった。その後ほぼ37平方メートル縮小し、現在は約214平方メートルで、金融危機直後と同じ水準に戻っている。建設業者は手頃な価格を狙い、以前よりも小さな一戸建てやタウンハウス、コンドミニアムを建てている。これにより1戸あたりの販売価格の中央値は下がるが、面積あたりの価格は着実に上昇している。1平方フィート(約0.09平方メートル)あたりの価格は2016年の約127ドル(約2万円)から現在は約231ドル(約3万円)になった。

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翻訳=上田裕資

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