経営・戦略

2025.09.09 15:30

人的資本経営の成功例、急成長するSHIFT丹下大が語る「ヒトログ」の全貌

丹下 大|SHIFT代表取締役社長

丹下 大|SHIFT代表取締役社長

人間の可能性をブーストする経営手法で「誰もやりたがらない」仕事を宝の山に変えた。変化著しいIT業界のなかでも異形の急成長を遂げてきたSHIFTが狙う次の市場は。

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2014年の上場から10年間で売上高を50倍、時価総額は100倍に──。ソフトウェアテストで頭角を現し、今や総合システムインテグレーターとして存在感を高めるSHIFTの成長スピードは業界でも際立っている。上場時に21億円だった売上高は24年8月期に1106億円にまで拡大。7月9日には今期予想を売上高1300億円、営業利益150億円とする上方修正を発表した。時価総額は4500億円(7月9日時点)で、過去20年の間に上場した日本企業のなかでも突出した株価100倍の急成長を遂げている。その歩みは、常に「突き抜けるビジネス」を追求してきた歴史だ。創業者・代表取締役社長の丹下大は、「マグマが溜まっている岩盤を探し出し、穴を開け、エネルギーを解放するイメージ」だと説明する。ソフトウェアテスト事業はその最初の成功体験だった。

創業は05年。当時、システム開発の世界で工数の約4割を占めるテストは、スキルや評価基準が未整備な「誰もがやりたがらない仕事」だった。丹下は起業前に製造業向け業務改善コンサルティングに従事。ここで培った標準化、仕組み化のノウハウをこの巨大市場にもち込めば勝てると確信していた。「小学生の運動会に大学生が参加するようなもの。それは当たり前に伸びるでしょうと思っていましたよ」と笑う。

既存の社会の枠組みのなかではなかなか報われない人材をソフトウェアテストなら生かせるとも考えた。「世の中には、学歴がないとか、コミュニケーション能力がちょっと足りないとか、頭はいいんだけどチャンスをもらえなかった子たちがたくさんいる。彼らの認めてもらいたい、好きになれる仕事に出合いたいという強い思いが、僕には爆発しそうに見えたんです」

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同社のテストエンジニア採用コストは現在、1人あたり80万円から120万円ほど。一方、当時は求人雑誌に10万円の求人広告を出しただけで約400人を採用した。1人あたりの採用コストはわずか250円。人材市場にどれほどのエネルギーが眠っていたのかがうかがえる数字だ。

SHIFTはソフトウェアテストの標準化に取り組み、その過程でテスト人材に必要なスキルを詳細に定義するとともに、未経験者から適性人材を発掘する仕組みを構築。IT市場の「構造課題」と、報われない人材がもつ「潜在能力」というふたつのマグマを結びつけ、爆発的な推進力に変えたのだ。

14年に上場し、以降はケイパビリティの拡大にも注力してきた。大手SIerなどからユーザーの業務知識に長けたトップ人材を採用するとともに、積極的なM&Aも進めた。これまでのM&A件数は37件(25年6月末時点)に上る。テストだけでなく、ITコンサルが手がけるようなシステムの企画から要件定義、設計、実装を含めて、上流から下流までをワンストップでカバーできる総合SIerとしての機能を備えるようになっていく。現在では、連結売り上げに占めるソフトウェアテスト事業の割合は4割程度になっている。

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文=本多和幸 写真=ヤン・ブース ヘアメイク=yoboon

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