従業員の抵抗感はないのか。丹下の見解はこうだ。
「家族構成や趣味、飲み会の頻度、介護の有無などの細かい情報まで僕らは聞くんです。ほとんどの社員が入社当初は驚いたでしょうし、嫌だったかもしれない。でも、もし介護で悩んでいることがあったら、情報を把握しているからこそ会社もサポートができる。それに、やっぱり人は何かのために働きたいんです。家族のためでも、ペットのためでも、趣味のためでもいい。会社としてそれを応援したいとうそ偽りなく心から思っています。実際の人事評価を通して、会社は自分の情報を絶対に悪用しない、むしろサポートするのに活用してくれていると多くの社員が実感してくれている」
年に3カ月を費やす人事評価では、役員たちが450項目の経年変化から従業員一人ひとりの人生のフェーズまでを把握し、必要な働きかけを行う。「人間だから、頑張れないとき、ちょっとゆっくり働きたいときはあります。でも、やる気がある人、やる気を出せるタイミングにある人はとことんブーストしてあげたい。社員1人が1馬力から1.1馬力になったら、総和はさらに大きく膨らみます」
こうした取り組みの結果、SHIFT単体の離職率は6%という低水準で、業界平均の15%を大きく下回る。450項目のデータは、従業員を縛るためではなく、むしろ自立と自律をきめ細かくサポートするためにあるということだろう。
会社からの後押しは、キャリアと報酬に直結する検定制度を通じて、社内に健全な競争意識も生んだ。
「強制ではないので、検定の勉強は残業になりません。でも、学歴や職歴がなくても努力するだけで給料が大幅に増えるわけです。最初は第2新卒の社員たちが頑張って、大手SIer出身のベテランの給与を追い抜いていった。そうしたら、抜かれたほうも勉強するようになるんですね。そういう実力主義って日本人に合うのかなと半信半疑ではあったんですが、みんなフェアに評価されたいんだなという発見がありましたね」
SHIFTは最新の中期経営計画で、28~30年までに売上高3000億円を達成するという目標を掲げている。現在の約3倍で非常に意欲的な目標設定に見えるが、丹下には成算があるという。
まず、成長のドライバーとして強力に推進してきたM&Aを、新たな発想でさらに加速させる。かつてはEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)マルチプル8倍以下を基準に、収益力の高さに対して割安に買える企業をM&Aの対象としてきた。「SIの業界では年間数百社のM&Aが起こっていますが、EBITDAマルチプル8倍以下で買うとなると10社くらいしかM&Aの対象にならなかった。でも、基準値を見直すことで対象社数を大幅に上げられる」
「のれん負け」のリスクを指摘する声もあるが、短期的な会計上の見栄えより長期的な成長機会を優先する丹下は意に介さない。これまでのM&AでPMI(M&A成立後の経営統合プロセス)を磨き上げ、投資を回収してグループとしての収益・利益の拡大につなげるノウハウには絶対の自信をもっているという。



