経営・戦略

2025.09.09 15:30

人的資本経営の成功例、急成長するSHIFT丹下大が語る「ヒトログ」の全貌

丹下 大|SHIFT代表取締役社長

多重下請け構造という「マグマ」

丹下にとっては、「IT業界に残る多重下請け構造」もマグマが眠る岩盤だった。この構造は、プロジェクト全体の高コスト化を誘引する一方で、末端の開発会社や開発者が高負荷・低報酬になってしまうという課題がある。SHIFTは、技術力があってもさまざまな事情で多重下請けの下層での仕事を余儀なくされている小規模開発会社をグループに迎え入れている。同社がプライムでシステム開発案件を受注し、プロセスごとに最適なグループ会社に直接仕事を発注。プロジェクト価格そのものを適正化するとともに、グループ会社にもプライムでの受注に準ずる高単価かつ健全な業務環境で仕事をしてもらうというスキームを拡大している。

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「就職氷河期で大手に就職できなかった人など、地頭はいいのに3次や4次請けの開発会社で低報酬の仕事に甘んじている人がたくさんいる。M&Aによって、プライムの仕事で彼らのパワーを解放してもらえるようにしたわけです。それだけなんですけど、ものすごいパワーですよ」

SIerとしてカバーできる業務範囲が広がるにつれ、テスト以外の業務も標準化していき、従業員の資質・素養やスキルを把握する検定試験などの仕組みを拡充。教育プログラムも充実させているという。ただし、業界では最上流のコンサル業務で「顧客の潜在的な課題やニーズを把握して成長を支援する」という趣旨のメッセージを打ち出す同業他社が少なくない。顧客の高度な要求に応える業務を標準化、仕組み化できるものなのか。そう問うと丹下はこう答えた。

「本当に顧客の課題やニーズを先取りできるコンサルタントは、多くても1000人に1人しかいません。サラリーマンだった20代のころ、まさにコンサルをやっていて140人の部下がいましたが、そういうことができた人はいなかった。それはどのコンサル会社でも同じでしょう。だから残りの999人を仕組み化したほうがいい。資料をまとめたり、上申書や比較表をつくったり、クライアントの社員を代替して人間がやらなければならない業務はあるんです。そのための思考のフレームワークをつくってあげれば、業務の仕組み化や検定試験化はできます」

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「999人」の業務を標準化することで、SHIFTは品質のブレが少ないコンサルティングサービスを「高過ぎず安過ぎない現実的な価格」で提供。これによって顧客の信頼を獲得している。

「450項目のデータ」で社員をブースト

SHIFTの急成長は、人的資本経営の成功例として語られることが多い。ここまで触れてきた同社の文化である標準化や仕組み化は、人事戦略でも同様に徹底されている。象徴的な取り組みが、従業員を450項目のデータで管理する独自の人材マネジメントシステム「ヒトログ」の開発と活用だ。業務にかかわる情報だけでなく、プライベートな情報も含めて収集しているヒトログには、丹下の哲学やビジョン、意思が細部まで反映されているという。厳格な管理体制に見えるが、丹下の意図はそこにはない。

「病的だとは自覚していますが(笑)、僕は人間にものすごく興味がある。従業員一人ひとりの良いところ、面白いところを探し、どう評価し、どう褒めてあげられるかをずっと考えています。それでパラメーターを追加し続けた結果、450項目になったんです」

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文=本多和幸 写真=ヤン・ブース ヘアメイク=yoboon

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