ウクライナの首都キーウ中心部の何の変哲もない教室に、夏の土曜日に集まった十数人の男女が誰であるかを示すものは何1つなかった。パンク風の黒い服に身を包んだ青白く痩せた女性が、作業服姿のがっしりした男性たちと気さくに混ざり合っていた。年齢層は20代前半から中高年までと幅広い。男女は温かくあいさつや冗談を交わしながらプラスチック製の椅子に腰かけ、講師を待っていた。
ここに集まった人たちに共通していたのは、全員がウクライナの退役軍人ということだった。出席者は、政府や非営利団体、地域社会など、あらゆる分野で指揮を執るための準備を目的としたプログラムに参加していた。プログラムの共同設立者ヤナ・チャパイロが筆者の取材で語ったように、これは「ウクライナを再建し、強化する」ための取り組みだ。
ウクライナでは、近い将来に平和が訪れると期待する国民はほとんどいない。北の隣国ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナを征服するという目標を達成するまでは、和平に応じないだろうと信じているのだ。他方で、ロシアの影響から脱却し、欧州の民主主義国家として生まれ変わろうとするウクライナでは、国民の誰もが国の未来を心に刻んでいる。それが、ウクライナ人が戦い、命を捧げる理由だ。国の復興を考えるのに早すぎるということは決してない。
同国の国会議員の試算によれば、戦争が終わる頃には退役軍人が300万人に達する可能性があり、人口の10%程度を占めることになる。退役軍人は、国家の再建で主要な役割を果たすことが期待されている。だが、そこには数多くの問題もある。国民の間で、ロシアに対して武器を取った者と取らなかった者との間に生じた深刻な社会的分断もその1つだ。
首都中心部にある小規模な伝統校であるキーウ・モヒラ・アカデミー国立大学内に設置されたウクライナ防衛者リーダーシップセンターは、戦後にウクライナを継承する世代を受け入れている。
戦後の国家再建を担う世代を育成する集中プログラム
プログラム参加者の大半はフルタイムの仕事を持ち、4分の1は依然として軍に在籍している。そんな中でも、参加者は週に2回の夜と土曜日の終日、授業に出席する時間を確保している。同センターは、従来の社会福祉や精神衛生に関するサービスは提供していない。これは主にモヒラ・アカデミーの教員が無償で提供する学術プログラムであり、ウクライナ史や文学のほか、公共行政学や戦略的コミュニケーションなどの授業が行われている。
同センターによればプログラムの目的は、ウクライナのアイデンティティーと政治的価値観についての理解を深め、兵士が軍隊で学ぶ個人的責任感を強化することにある。その精神は愛国的でありながら、知的な厳格性も備えている。元非営利団体職員のチャパイロは、「私たちはウクライナの体制の弱点についても率直に語り合っているが、将来の指導者がそれをどう変えていけるのかに重点を置いている」と説明した。



