アブドゥリンの友人、リュドムィラ・パウテツィ(35)は授業中は静かだが、すでに自身の専門分野で高い実績を上げている。黒髪に太い眉の青白い女性で、幼少期から医学の道に進みたいと考えていた。医学部に進学するだけの経済的な余裕がなかったため、パウテツィは看護学と医療事務を学んだ。2014年にロシアが支援する戦闘員がウクライナ東部で分離独立運動を起こした際、パウテツィは救急救命士として志願しようとした。ウクライナ軍は受け入れなかったが、パウテツィは志願兵として従軍し、激戦地から負傷兵を救出するなど最前線で医療支援に携わった。
戦場で必要な手当てを施すだけの知識が自分には足りないと感じた時の焼き付くような記憶が、パウテツィを医学教育の道へと駆り立てた。その後、パウテツィは他者を訓練する仕事に就き、最終的には戦闘医療講座の開発に携わるようになった。現在は非営利団体「カムバック・アライブ」の戦術的医療指導部長を務めており、戦場の第一線医療に関する国家政策の策定にも参加している。
2人は異なる存在だが、多くの共通点を持っている。モヒラ・アカデミーのプログラムから何を得ているかと尋ねられると、両者ともコミュニティー意識だと答えた。「軍務経験のない人たちは、私たちのことを理解できない」とアブドゥリンは不満を漏らす。「退役軍人で医師の友人が病院に再就職しようとしたところ、採用担当者が知りたがったのはただ1つ、『ロシア人を何人殺したか?』ということだけだった」
アブドゥリンは、モヒラ・アカデミーのプログラムで扱われるすべての課題の意味が理解できているかどうか確信が持てないという。だが、アブドゥリンが参加の意義を感じたのは「退役軍人のコミュニティー」だった。「ここに集まる人たちはまったく違う。年齢も職業もさまざまだ。しかし、私たちは皆同じ経験をしてきた。だから互いを理解している」
アブドゥリンもパウテツィも、ウクライナ軍の欠点についてははっきりとした見解を持っている。両者とも、軍隊の中での自分の居場所、つまり自らの技能を十分に生かせる部隊や職務を見つけることに苦労した。
2人は、目の前の任務や指揮下にある戦闘員の命より、規則や上司の評価を気にする視野の狭い「ソビエト式」の指揮官に苦悩していた。パウテツィの最大の不満の1つは、ウクライナ軍がジェンダー問題に無頓着だったことだ。パウテツィは、自分が十分に資格を満たしていたにもかかわらず、複数の職務を拒否されたと証言している。
最も深刻な問題として、両者はウクライナ軍が新しい考えに対して消極的なことを挙げている。パウテツィは語る。「体制の内部から体制を変えることは不可能だ。だから私は実際には軍隊に入隊しなかったのだ。すべての仕事をボランティアとして行った」


