スポーツ

2025.09.05 13:45

日本のスポーツビジネス9.5兆円市場。その不都合な真実と未来

「9.5兆円」。

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これは日本政策投資銀行(DBJ)が2024年11月に公表した2021年時点のスポーツGDP(国内総生産)だ。日本の名目GDP(約553兆円)に占める割合は1.72%に達し、統計開始以来、過去最高の数値を記録した。

この輝かしい数字を前に、スポーツが持つ無限の可能性や、経済成長の新たなエンジンとしての期待したくなる。しかし、その光り輝くコインの裏には、我々が見過ごしてはならない、日本のスポーツ産業が抱える構造的な歪みが存在する。ここではDBJのレポートに準拠し、この9.5兆円という巨大市場の「現在地」を因数分解、その数字を支えているのが本当は何か、その正体を暴くとともに、その対応策を考える。

V字回復の立役者とその「正体」

2020年、新型コロナウイルスのパンデミックは世界経済に未曾有の打撃を与えた。日本のスポーツ産業も例外ではなく、スポーツGDPは前年比マイナス7.68%と大幅に落ち込み、8.8兆円まで縮小した。しかし、そのわずか1年後、スポーツGDPは9兆4992億円まで回復、日本経済全体の回復ペースを大幅に上回るプラス8.29%という驚異的な成長率を記録した。

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問題は、この力強い回復を牽引したのは「何か」だ。DBJのレポートを詳細に見ると、その答えは明らかだ。ひときわ強い輝きを放った主役は、プロ野球でもJリーグでもなく「競輪・競馬等の公営競技」。コロナ禍の巣ごもり需要を追い風に、この分野は2019年から21年にかけて年平均成長率14.7%という爆発的な成長を遂げ、21年のスポーツGDPにおける構成額は1兆3559億円に達した。

この「1.3兆円」という数字ですら、その巨大さのほんの一端しか示していない可能性がある。DBJの推計は、あくまで国際基準である「スポーツサテライトアカウント(SSA)」に基づき、各産業の「付加価値(GDP)」を算出したもの。

一方で、市場全体の動きを示す「売上高」に目を向けると、その規模はさらに桁違いとなる。例えば、日経クロステックの報道によれば、中央競馬と地方競馬を合わせた競馬の年間売得金(売上)は、2022年時点で約3兆3000億円を超えている。

実は日本の競馬ビジネスは売上という観点からは、2位のオーストラリア(約2兆8000億円/2022年)、3位イギリス(約2兆7000億円/2020年)、香港(約2兆7000億円/22年)を大きく引き離し世界一の市場でもある。

GDPに話を戻そう。DBJのレポートで「プロスポーツ(興行)」全体がわずか1138億円に過ぎないことと比べると、その差は歴然。華やかなプロスポーツがパンデミックに喘ぐ中、日本のスポーツ産業全体の数値を力強く下支えし、V字回復を演出した真の立役者は、紛れもなく公営競技だった。

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文=松永裕司

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