約1割の大学生は講義のノートを取らない。予定を手帳などに書く習慣のない大学生は2割強。「書く」ことが習慣化されていない学生が一定数いる。そうした書かない人たちは新聞や本などの文字情報もあまり読まず、日本語の読解能力が劣っていた。
応用脳科学コンソーシアムが東京大学、日本紙パルプ商事、日本漢字検定協会などと共同で、手書きのよさを科学的に検証する目的で発足した「手書き価値研究会」は、大学生、大学院生、短大生を含む18歳から29歳の学生1062人を対象に「書字と読書における使用メディアについてのアンケート」を実施したところ、大学の講義内容を一切記録しない人は10パーセント、日常的な予定を紙または電子機器に一切記入しない人は24パーセントいることがわかった。
また、新聞や雑誌などを普段読まない人は20パーセント。紙の本を読むと答えた人も、1日の読書時間は40分程度だった。紙、電子を問わず専門書や教科書を普段から読むという人も38パーセントにとどまり、同研究会は「高等教育に必要な学習時間が十分に確保されているとは言い難い」と懸念を表している。同時に、新聞、雑誌、本を普段よく読む人は、日常的にいろいろな場面で文字を書く傾向があり、読むことと書くこととの高い関連性が示された。
心配なのは、読まない書かないことによる能力の低下だ。アンケート参加者の読解力を評価するため、日本漢字検定協会の準2級の国語問題を解いてもらったところ、講義のノートを取る人、本や新聞をよく読む人のほうが、それらをしない人にくらべて成績が高かった。このことから、「日常的なメモの取り方や読書習慣は、文章の読解力や論理的な思考力に関係する」ことが明確に示されたという。
じつは、人間の脳の言語野では、入力された言語情報、つまり読んだ文字情報が記憶の参照と想像を経て「構造化」される。構造化されることで、その情報を理解したり推論ができるようになるのだ。さらに、そこから適切な表現で出力、つまり書くこともできるようになる。読むことと書くことは、言語野で連動しているということだ。ここを使わなくなると、文字情報の理解や表現が難しくなる。論理的思考力が低下するわけだ。
今回は大学生を中心とした調査だったが、読み書きの習慣は高校生までの学習経験が反映されていると考えられると手書き価値研究会は指摘している。それより何より、本の面白さを知らずに育つとは、もったいないことだ。



