新規事業

2025.09.09 14:15

78歳店主の写真館、廃業相談からの大ヒット。「行列のできる中小企業相談所」はこう助言した

「行列のできる中小企業相談所」オカビズを訪れた写真館ホタルヤの大須賀姉妹と筆者

「行列のできる中小企業相談所」オカビズを訪れた写真館ホタルヤの大須賀姉妹と筆者


愛知県岡崎市に、「行列のできる中小企業相談所」がある。これまでに受けた相談は実に2万9000件。徹底して「売上アップ」に照準をあて、誕生を介助した新事業、新商品は1000を超える。

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この脅威の「ビジネス相談所」、通称「オカビズ」の立ち上げセンター長は秋元祥治氏。Forbes JAPANオフィシャル・コラムニストでもある氏はこの度、オカビズを通じた「ふつうの人たち」の事業へのサポート事例を1冊の書籍にまとめた。

『自分だからできる仕事のつくり方』(ダイヤモンド社刊)
『自分だからできる仕事のつくり方』(ダイヤモンド社刊)

『自分だからできる仕事のつくり方』(ダイヤモンド社刊)

帯にはLINEヤフー 代表取締役会長 川邊健太郎氏による"「小さなイノベーション」の達人が、ついにその知見をまとめてくれました"のメッセージが踊る、『自分だからできる仕事のつくり方』(ダイヤモンド社刊)である。

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ここでは同書から、その一部を転載して紹介しよう。


Key Case 1 | 写真館・ホタルヤ

78歳の写真館店主から大ヒットサービスを引き出した「強み」の力

それまで世の中になかった仕事

「次の方、どうぞ」

その言葉で待合室の席を立って相談ブースにいるこちらに向かってきたのは、ご高齢の女性ふたり。お話を伺うと78歳、72歳の姉妹で、相談内容は、昭和26年創業の写真館ホタルヤを廃業したいというものでした。

理由は、ずばり業績不振。写真館の主たる売上であるお宮参り、七五三、成人式の前撮りの3つのどれもが、「こんなおばあちゃんに撮ってもらうより、今ふうのスタジオで撮ってもらうほうがみんないいみたい」と、ふるわなくなっているといいます。本人たちは元気だし、写真も好きだから商売を続けたいが、私たちのような「年寄り」に写真を撮ってもらいたい人なんてもういないよねと諦めかけていたのです。

さて、もしあなたがオカビズの相談員だとして、今回のような相談を受けたら、どうしますか。

本人たちの希望どおり、廃業の手続きについてアドバイスを始める……と思ったなら、どうか少しだけ待ってください。なぜならこの後、私との対話を通して、この写真館は「ホタルヤにしかできない、それまで世の中になかった仕事」を生み出し、大復活を遂げるからです。

結論を述べる前に、まずはこのとき相談に来た大須賀姉妹が運営していた写真館、ホタルヤの現状をまとめておきます。あなたなら、どんなアドバイスをしますか?

・戦後間もない昭和26年創業の写真館

・岡崎市の中心部からは少し離れた美合という地区にある

・代表である大須賀予偲子さんは当時78歳

・お宮参り、七五三、成人式の前撮りなどの記念写真は、大手フォトスタジオチェーンが優勢

ネガティブにしか見えないことすら、「強み」に変えられる

「なんで写真を始めたんですか?」

廃業相談であることはわかっていたものの、長く続けてきたおふたりに自然と敬意がわいてきた私は、これまでの歩みをあれこれと聞いていきました。この後の第1章でも述べるとおり、強みは本人が「なんてことはない」と思っている過去のキャリアから見つかることが多いと知っていたからです。

最初はぽつり、ぽつりと話してくれていた大須賀姉妹も、聞いているうちにどんどんのってきてくれました。

半世紀を超えるその物語を聞いてわかったのは、大須賀さんのフォトグラファーとしての実績の高さ。戦後すぐの頃に東京の芸大写真学科を卒業したという経歴、数々の受賞歴を誇るうえに、この岡崎という土地で商工会議所の歴代会頭の写真を担当するなど、非常に重要な仕事をしてきたことがわかったのです。

ホタルヤがたどってきた物語を聞くうちに、私は、これほどの実績の方が今も現役で写真を撮っていることって、実はすごいんじゃないかと思えてきました。大須賀さんは、高齢を理由に廃業を検討していたわけですが、私にはまったく逆の光景が見えはじめていました。つまり、大須賀さんの「高齢」を強みにリフレーミングできる可能性です。

では、どのような「見方」をすれば、高齢という通常はネガティブにしか見られないものを強みに読み換え、オンリーワンの仕事を生み出すことが可能になるのでしょうか。

トレンドとの掛け算で生まれた「生前遺影」というサービス

私は普段、ありとあらゆるものを観察しています。コンビニに入ってもレストランで食事をしていても、常に「雑多で圧倒的な情報収集」を心掛けてキョロキョロ。その理由は、観察こそが、ひらめきの源泉となると考えているからです。

それを実践するうえでのノウハウは第3章の「8つの習慣」で紹介しますが、このホタルヤの相談において役に立ったのは、「たまに本屋で30分」。文字通り、本屋さんに赴いてじっくりと観察をするというものです。

当時、そんなふうに本屋でぶらついていて、勢いがあると感じたのが「終活」というジャンル。「エンディングノート」といった納得できる「終わり」に向けてのグッズから、生前整理や遺言にまつわる書籍が一定の面積を占めていました。

大須賀さんの話を聞いていたとき、この情報が頭のなかでよみがえり、これだ、とひらめきました。故人を見送る際、最も急いで準備をしなくてはならないために妥協しがちな「遺影」を、信頼と実績ある大須賀さんに元気なうちに撮ってもらう。高齢のフォトグラファーだからこそ、ターゲットとなる高齢者から安心してもらえるはず―。

これが、後に「生前遺影」としてヒットするアイデアが生まれた瞬間です。

これにより、大須賀さんのホタルヤは売上が急拡大。新聞、テレビをはじめメディアにも多数取り上げられたことで、新商品である「生前遺影」だけでなく、一般撮影の受注も伸びました。その後には、ぜひ遺影を撮ってもらいたいと他県からもお客さんが続々訪れることとなりました。そして、大須賀さんは再び写真館を継続していく意欲を取り戻したのでした。

自分らしい仕事をつくり出すのは、「あなた」に他ならない

自分だからできるビジネスのヒントを探すとき、一番おろそかにされるものが「自分たち自身」であることは、残念ながら非常に多いと感じます。ひと言で言えば「実にもったいない」です。

大須賀さんのように、付け焼き刃の新しさではなく、本人がすでに持っているものを「強み」と読み換えたときにこそ、世界にまだない、オリジナルなアイデアへと昇華するのです。

これまで、2万9000を超える相談をオカビズがお受けしてきて思うのは、どんな人、どんな会社であっても、その内側にとんでもない「強み」を抱えているということです。言い換えれば、私にはあらゆるものが宝の山に見えています。後は、あなたがその宝を見つけてあげるだけなのです。

『自分だからできる仕事のつくり方』(ダイヤモンド社刊)
自分だからできる仕事のつくり方』(ダイヤモンド社刊)

秋元祥治(あきもと・しょうじ)◎早稲田大学政治経済学部中退。在学中の2001年、起業家的人材育成と地方創生をテーマにG-netを創業(現在理事)。また、2013年・33歳で「売上アップ」に焦点を当てた愛知県岡崎市の公的産業支援機関「オカビズ」センター長に就任。2021年からチーフコーディネーター。オカビズは開設12年で累計約2万9000件・4400社の来訪相談の対応を行う。2021年には武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の立ち上げに携わり、現在教授。Yahoo!ニュースオーサー、 ForbesJAPANオフィシャルコラムニストとして執筆。コメンテーターとしてTBS「Nスタ」等出演。受賞歴に、内閣府「女性のチャレンジ支援賞」/ニッポン新事業創出大賞支援部門特別賞/「岐阜県民栄誉賞」ほか。内閣府「地域活性化伝道師」・総務省「地域力創造アドバイザー」等、公職も多数。著作に『20代に伝えたい50のこと』(ダイヤモンド社刊)がある。10万部を超えるベストセラーとなった絵本『しょうがっこうがだいすき』の、執筆当時小学2年生の著者秋元うい氏の父でもある。

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