米国はトランプ政権下で、戦後数十年にわたり築かれてきた秩序が大きく揺さぶられ、新たな枠組みが形作られつつある。こうした中で日本が米国と良好な関係を築いていくには、米国における新たなパワーダイナミクスを正しく理解し、従来の認識を改める必要がある━━。そう指摘するのは、1980年代に米国通商代表部(USTR)で日米交渉の最前線に立ち、その後数十年にわたりビジネスの現場でグローバルに活躍してきたグレン・S・フクシマ氏だ。大変化の時代は同時に大きな機会の時代でもある。日本がこの変化を読み取り、米国と建設的な関係を築いていくために必要な視点、そして日本再生へのヒントを伺った。
変容する政府とビジネスの関係性
吉川絵美(以下、吉川):グレンさんはふだんからワシントンD.C.、シリコンバレー、東京を行き来されていますが、現在のアメリカで起きている大きな変化の中で、日本が理解すべき最も重要なことは何だと思いますか。
グレン・S・フクシマ(以下、フクシマ):私は80年代に米国政府、その後はグローバル企業で働く中で、国ごとに政府と企業の距離感が異なることを肌で実感してきました。そして同じ国でも時代によってその関係性は大きく変わるため、常に認識をアップデートしていく必要があります。
近年ではCOVIDや中国の台頭もあり、政府とビジネスの関係性は一層重要になっています。以前は「グローバリゼーション」によって国境の障壁が下がり、企業は世界のどこでも活動でき、コスト効率や経済合理性で拠点を選ぶべきだという考えが主流でした。しかしCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)は、人工呼吸器やマスクといった必需品を中国に全面的に依存できないという現実を突きつけ、政府の役割に対する認識を大きく変えました。
さらに中国との関係では、アメリカの自由市場主義者でさえ「中国は特別なケースであり、米企業単独では競争できない。産業政策によって米政府が支援すべきだ」と主張する人が増えました。対象はAI、半導体、通信機器、量子コンピュータなど多岐にわたります。
戦後1945年から2016年頃までの期間、一般的に共和党は自由市場を支持し、「政府はできるだけ小さく」という立場を取っていました。一方、民主党は特に市場の失敗がある場合には政府が積極的に経済に関与すべきだという立場でした。
しかし、トランプ政権(特に2期目)は、多くの共和党員が政府介入を強く支持する姿勢を示しました。トランプ自身も国家のCEO(最高経営責任者)のように振る舞い、日本製鉄とU.S.スチールの案件でも、米政府が「ゴールデンシェア」をもち、将来の事業方針に影響を与える仕組みを用意しました。
さらに、アメリカとEU・韓国・日本との間で結ばれた貿易協定には「投資ファンド」が含まれており、たとえば日本の場合は総額5500億ドルを米国に投資するというもので、大統領がその使途を裁量で決められるとされています。米政府の説明では、この資金は米国内の造船、半導体、製薬などのインフラ整備に充てられるとのことです。
こうした状況から、一部では「もはや資本主義ではなく国家資本主義だ」との声も出ています。かつては政府関与を重視していたのは民主党でしたが、今ではトランプ政権下の共和党がより強い政府役割を提唱しているのです。これは20年前には見られなかった変化です。
日本側では、経産省やアメリカで活動する一部企業はこうした変化に気づいていますが、日本全体としてはあまり認識が広がっていないようです。依然として「共和党=自由貿易・市場重視」という旧来のイメージが残っていますが、現実は変わっています。



