宇宙

2025.09.01 10:30

宇宙論的「リチウム問題」、解決には標準理論超える新物理学が必要か?

欧州宇宙機関(ESA)のユークリッド宇宙望遠鏡が撮影した球状星団NGC 6397。さいだん座の方向約7800光年の距離にある、宇宙初期に形成された非常に古い球状星団で、金属(重元素)量が著しく少ない(ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by J.-C. Cuillandre (CEA Paris-Saclay), G. Anselmi)

欧州宇宙機関(ESA)のユークリッド宇宙望遠鏡が撮影した球状星団NGC 6397。さいだん座の方向約7800光年の距離にある、宇宙初期に形成された非常に古い球状星団で、金属(重元素)量が著しく少ない(ESA/Euclid/Euclid Consortium/NASA, image processing by J.-C. Cuillandre (CEA Paris-Saclay), G. Anselmi)

リチウムは、電気自動車やスマートフォン向けの需要が現在非常に高まっている一方、天体物理学の理論を限界に追いやり続けてもいる。軽金属リチウムの宇宙誕生当時の原始存在量をめぐる謎は、今や20年以上にわたって天体物理学者の頭を悩ませ続けており、宇宙論的リチウム問題として知られている。この謎を最終的に解決するには、新しい物理学が必要になるかもしれない。

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この問題の核心は、リチウムの安定同位体の1つで、陽子3個と中性子4個でできているリチウム7(7Li)について、存在量の観測値が理論による予測値を大きく下回る点にある。

スウェーデン・ウプサラ大学の恒星天体物理学者のアンドレアス・コーンは、首都ストックホルムで取材に応じ、初期宇宙にはリチウムの原子核1個に対し水素の原子核が20億個あると語っている。

古い銀河ハロー星におけるリチウム7存在量の観測値は、宇宙誕生直後に起きたビッグバン元素合成(BBN)によるリチウム7生成量の理論予測値の2分の1~3分の1となっている。BBNは(宇宙誕生から数分が経過した頃に)水素、ヘリウムと微量のリチウムとベリリウムという最初の軽元素を生成したプロセスだ。

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リチウムはレアアース元素ではないが、宇宙で非常に希少な元素の1つだ。現在の宇宙では、存在量が水素の約10億分の1、酸素の10万分の1しかない。

なぜこれが問題となるか

リチウム7の問題が重要なのは、BBNで唯一未解決となっている観測と理論の不一致をもたらしているからだと、コーンは指摘する。ビッグバンで生成されたリチウム7の量が過剰に多く、観測される古い星に含まれる量が過剰に少ないのだという。

もしこの問題が従来の理論で解決できないならば、新しい物理学のための扉が本質的に開かれていることになる。

宇宙に存在する奇妙な暗黒物質の真の性質をBBNや何らかの他の観測などを通じて明らかにすることは、基礎物理学の大変革となるだろうと、コーンは述べている。



物理学者は、素粒子物理学の標準理論が不完全であることを知っている。

新しい物理学の範囲にさらなる制約を課すために、未だに見つかっていない宇宙の奇妙な暗黒物質の重力効果以外の手がかりを物理学者が探し求めるのは至極当然のことだと、コーンは指摘する。BBNの不一致が、こうした手がかりを与えてくれるかもしれないという。

従来の物理学のこのような拡張によって、観測が困難な宇宙の暗黒物質も同時に説明できるかもしれないと期待されている。

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翻訳=河原稔

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