
高根:最近印象に残っているのは、アートバーゼル香港で、上海を拠点に活動する経営者コレクターがリアム・ギリックの作品を購入するプロセスを一緒に経験させていただいたこと。それはベンチのような作品で、「見る」だけでなく公共空間に置いて人々が座って「経験」してほしいというリアムの意図があるのですが、コレクターが実践しているのを見て感銘を受けました。
──アートの力によって未来を変えていく。その鍵はどこにあるでしょうか?
大林:まず大切なのは、美術館や博物館に足を運ぶことです。必ずしも現代美術館でなくても構いません。歴史ある博物館にも普遍的な美があります。そしてキュレーターの話を聞くことが重要です。彼らの広い視野から未来を読むヒントを得られるのではないかと思います。
高根:現代美術作家の中辻悦子さんは、子育てで制作できない時期が長くあり、また、自宅の壁は夫でアーティストの元永定正さんの作品で埋まっていたため、天井から吊るす作品を生み出しました。制約を力に変える姿勢を現代アートから学べることがあります。
永田:アートをもっと「当たり前の存在」にすることが未来を変えるのではないでしょうか。音楽はすでに民主化されていますが、アートも同じように広がるべき。家の中に花があり、アートがある。日常での接触頻度が高まり、無意識に取り込まれていくことが大切です。大林会長が常におっしゃるように、企業や組織がアートに触れる機会を増やすことが、社会全体を前進させると思います。

高根:Tokyo Gendaiで大切にしているのは、アートを通じて多様な人々が出会い、対話できるプラットフォームを作ることです。国や文化を超えて「理解する」よりも「気づく」ことに価値があると思っています。そうした対話の積み重ねに、5年後、10年後の未来を変える可能性があります。
永田:先日発表されたOpen AIの人材採用条件のひとつに、「曖昧さへの耐性」がありました。いかに大局的に曖昧さを捉え、何かを導き出せるか。AI時代に必要なのは「曖昧さを楽しむ力」です。論理的に積み上げるだけではなく、曖昧さから喜びや発想を得ること。これはアートに通じるし、人類が次のステージに進む上ですごく大事なことだと思います。
大林:経営もアートも、鍵は「ユニークネス」。唯一無二の視点を持つアーティストが生き残るように、企業も独自性を示さなければ競争に敗れます。アートから発想を学ぶことでユニークな経営ができ、その力で競争に打ち勝っていけると考えています。


