アジア

2025.08.30 09:00

FRBの独立性損なえばトランプの最悪の経済失策に 「特権」の要、破壊なら深刻な代償

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こうした特権的地位こそ、米国の最後の最上位格付けが5月にムーディーズ・レーティングスによって剥奪されても、ドルが暴落しなかった理由だ。米国債の利回りが急騰することもなかった。まさに法外な特権だ。

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FRBは、すべてをまとめる“接着剤”のような役割を果たしている。経済学者たちは、市場が混乱した際にFRBが戦略的なタイミングで利下げを行って救済に動くべきなのか、議論してきた。1980年代後半以降、グリーンスパンが断続的に行った株価下支えは、オプション取引の「プット(売る権利)」になぞらえて「グリーンスパン・プット」と呼ばれた。こうした政策対応は、以後のFRB議長にも受け継がれる慣行を生み出した。

危険なのは、トランプの介入でFRBが「プット」ばかりで節度を欠いた機関に成り下がることだ。いみじくも1950年代、FRBのウィリアム・マーティン議長は「FRBの仕事は、宴が盛り上がってきたちょうどその時にパンチボウル(酒の入った大きな器)を片づけることだ」いう有名な言葉を残している。

雇用の減速を示したデータを理由にトランプが労働統計局長を解任したことで、「アルゼンチン化」のリスクも取り沙汰されている。トランプがFRBの独立性を骨抜きにすれば、破滅的な物価上昇を助長しかねない。

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この企てによるダメージは修復が難しいだろう。トランプの関税は撤回できる。米国を再生可能エネルギー分野の競争から降りさせたり、デトロイトの自動車メーカーを電気自動車(EV)市場から引き揚げさせたりする彼の取り組みは覆せる。財政赤字を大幅に悪化させる減税措置も撤廃できる。しかし、FRBへの信認が失われた場合、それを取り戻すのはこれらの政策の巻き戻しよりも格段に難しい課題になる。

このリスクの影響をまともに受ける立場にあるのがアジアだ。アジアの経済は輸出主導型であり、ドルへの依存度も高いからだ。FRBの独立性に対するトランプの攻撃でドルの弱体化や米国債利回りの上昇が進むにつれて、世界の市場はより不安定になり、ますます予測が難しくなるだろう。

米銀JPモルガン・チェースのチーフ米国エコノミスト、マイケル・フェローリは「仮に大統領が成功すればその結果は重大なものになる」と警鐘を鳴らし、「インフレの上振れリスクを高める」ことになるとも指摘している。

こうしたシナリオでは、2026年は2025年にも増して厳しい年になるのではないかというアジアの懸念も強まるに違いない。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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