鄧:我々のビジネスは、自前で量産するモデルではないのです。自社開発のCNT製造装置「Caltema」を航空宇宙などの企業にライセンス提供し、彼らに量産してもらうことで、従量課金制で収益を得る仕組みです。
豊永:お会いしたとき、自社で量産したほうが、確実に利幅が取れるビジネスなのに、なぜそれでやらないんですか? と質問させてもらいました。鄧さんの答えは、「それではあまりに遅すぎる」。工場をつくるのも時間がかかるし、資金も必要だし、実際に生産する人員を雇って教育する手間もかかる。そんなことをやっていたらいつまでも進まないと。「技術を世に出す」ではなく、社会実装して世の中を変えることを本気で見据えた起業家だと胸を打たれたことが、投資の決め手になりました。
鄧:CNTは基礎素材ですから、市場にいち早く届けて、役に立って初めて意味がある。実際に今、「Caltema」は数社が導入の意向を示しています。我々が生産したCNTの実績としては、ドローンのパーツに使われたり、バドミントンのガットのコーティング剤としても使われたりしていて、後者は今年中に100万張以上の出荷が見込まれています。航空宇宙分野では、この夏打ち上げ予定の大学研究機関の人工衛星にも採用されている。こうした共同研究開発などで一定の収入はありましたが、「Caltema」の提供で、ようやく自走できるぐらいの収益構造になっていく計画です。今後は、上場プロセスも進行中ですし、大型のファイナンスをして、社会実装までの時間を短縮していく。メインターゲットは航空宇宙とスポーツ・レジャー分野ですが、事業計画に入れている分野をすべて足すと90兆円の巨大市場。世界中の誰でもどこでもCNTを量産できる状態をつくっていきたい。
豊永:我々は、カーボンフライが上場しても、株を長期保有することを想定しています。基礎素材はアプリケーションを選ばないので、すべての領域で価値を出せる。その先に広がる成長をずっと応援していきたいですね。
とよなが・まさき◎2015年、東レに入社し、工業用水処理膜の海外向け営業に従事。その後、GSユアサでの海外向け営業を経て、22年4月に千島土地に入社。同年9月に、スタートアップ投資チームを立ち上げた。(写真左)
テン・フィ◎中国出身。2008年、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士後期課程修了。米デラウェア大学でのポストドクター、パーマネント研究職員を経て、米国、中国にて起業。3度目の挑戦として22年1月、カーボンフライ設立。(同右)


