Forbes JAPANでは2023年から、事業共創に挑むプレイヤーに光を当てる「クロストレプレナーアワード」を開催している。共創により、一社では成しえない価値の創出に挑む──。そんな思いを体現しようとするクロストレプレナーを全国から募り、5つのプロジェクトを表彰した。
そのなかで、フューチャーライフライン賞を受賞したのが、インフラゼロハウスだ。未来の仮設住宅としても期待される新たな家は、どのように誕生したのか。
8月25日発売のForbes JAPAN10月号では、5つのプロジェクトを紹介するとともに、事業共創の最新動向を解説している。
水と電気を自給し、災害時にも安心して暮らせる「インフラゼロハウス」は、MUJI HOUSE 取締役商品開発部長である川内浩司の構想だった。日本で起こるさまざまな災害に対して、インフラに頼らずに暮らすことができれば災害への恐怖が軽減されるはず、と考えたのだ。その実現のために向かったのは水循環システムを手がけるINNFRA。「川内さんがアポなしで来られて驚きました」とINNFRA代表取締役の川島壮史は出会いをそう振り返る。川内は笑いながら言う。「居ても立ってもいられなかったんです」。
インフラのなかでも「水」は課題が多い。供給はもちろん、衛生面で高い基準が求められる。川島のもとへ直行したのは、INNFRAがすでに八ヶ岳で水の循環を組み込んだオフグリッド(水と電気の自給自足)生活を実践していると耳にしたからだった。実際に現地を訪れるなかで、川内はインフラに頼らずどこでも暮らせるという構想をより具体的に描き始める。
行き着いたのは、移動可能なオフグリッドのトレーラーハウスという答えだった。社内からは不確実性が高すぎると反対の声もあるなか、ただひとり川内の背中を押したのが、当時の代表取締役だった。「いくらかかってもいい。とにかくやってみろ!」。親会社の良品計画のコンセプトである“いつものもしも”という災害を念頭に置いた考え方とリンクしたのだ。2023年、この一言で川内はアクセルを踏む。

わずか12.5m2に濃縮された3者の熱量
まずは水循環装置を設置したシャワー、キッチンのあるユーティリティ棟と、寝室とバイオトイレのあるリビング棟の2つのユニットで構成することになった。ただし、公道を牽引走行できる大きさと重量を考慮した結果、面積はわずか12.5㎡に。「このスペーシングの問題が大きかった」と川島は言う。水質を確保するための処理設備と配管経路をすべて見直した。一方、電気に関しては、モノクロームCOOの乾岳志に声をかけた。同社の強みは太陽光パネルと金属屋根の一体型製品「Roof-1」の軽さと意匠性の高さだ。住宅とは異なり、屋根面積が小さいため、壁への太陽光パネル設置も必須だった。「垂直施工、移動による耐震などすべてが初めての試み。MUJI HOUSEのイメージを壊さない壁としての意匠も求められ、それに応えられたと思っています」と乾。
ひとつの構想に集まった知恵と専門性が、狭小だが快適な住居を誕生させた。未来の仮設住宅としての可能性も秘めている。上市は25年末の予定だ。



