ビジネス

2025.08.21 15:15

己を捨てよ スズキが見出した、組織・社会を強くする演劇の力

2025年7月に刊行された書籍『演劇脳とビジネス脳』(講談社エディトリアル刊、西村真里子・宮城聰 編著)は、世界的演出家・宮城聰氏(公益財団法人静岡県舞台芸術センター(SPAC) 芸術総監督)と、サントリーホールディングス 代表取締役会長・新浪剛史氏、静岡県知事・鈴木康友氏、マネックスグループ取締役兼代表執行役社長CEO・清明祐子氏ら、各界のトップリーダー9名との対話を通して、演劇と経営の本質的な共通点を探るビジネス書だ。

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本書に登場するスズキ株式会社 代表取締役社長・鈴木俊宏氏が率いるスズキでは、まさに『演劇脳とビジネス脳』の好事例と言える経営陣への演劇研修が行われている。

法人とは法の下での人格であり、組織とは、その人格の脳であり、同時に身体でもある──スズキ石井直己代表取締役副社長はそう語る。マネジメントとは、組織の中のニューロン(個々の人材)とシナプス(そのつながり)を活性化させ、意思と行動を伝播させていく営みだ。
自我を手放し、会社という全体の判断を、シナプスのように他者へと渡し、つなげること。その中で、一人ひとりが必要な「役」を演じることが求められている。

そこには演劇の持つ「演じるために、自分を無にする」演出が有効になるというのだ。
演劇とは俳優が自己主張するものではなく、自分を空っぽにして劇場のあらゆるものを察知して反応していくべきものだと宮城聰監督は語る。

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「演劇とビジネス」。一見、対極にあるように見えるこの演劇とビジネスは、組織を強くする上でより必要になっていくと考える。静岡のビジネスカンファレンス TECH BEAT Shizuoka 2025では、『演劇脳とビジネス脳』を宮城氏と石井代表取締役副社長がステージ上で披露した。テクノロジーとアートの交差点を見続けてきた東京大学大学院情報学環 客員研究員で、ソニーグループ主任研究員/文化庁アドバイザーの戸村朝子氏もモデレーターとして参画し、演劇の力がどのようにビジネスに生かされているのか掘り下げた。当記事ではそのステージの様子を軸に、演劇がどのようにスズキ経営陣に活かされているのかを紹介する。

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文=西村真里子

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