ビジネス

2025.08.21 15:15

己を捨てよ スズキが見出した、組織・社会を強くする演劇の力

心にも広がる「小・少・軽・短・美」

経営者の研修を直接受けていない、スズキの若手社員にも経営者の変化が伝播しているらしく、若手社員が中心となって「心を軽くする体験イベント」を自主的に開催しているという。

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「心を軽くすると、どんな人でも才能が溢れ出る
演じる=自分を解き放つ ことが大事
心が軽くないと演じることはできない」
を合言葉に、活動の輪を広げているという。

日本の大企業において、演劇的手法を経営の中枢に導入するという行為は、型破りであると同時に、極めて論理的な判断でもある。なぜなら、今の日本企業が抱える最大の課題は、戦略や制度ではなく、“人が人を見過ぎている”ことによる硬直だからだ。

忖度、根回し、空気の読みすぎ──。それらはすべて、「本当の自分を守ろうとする演技」の結果である。そして皮肉なことに、演劇のプロから言わせると、「演技の本質」は“本当の自分を捨てる”ことにある。

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スズキで始めたこの経営を担う役員の演劇研修は、日本社会に沈殿した “重い心”に風穴をあける挑戦かもしれない。

最後に、石井氏が舞台上で語った言葉がこの構造の要を示している。

「スズキがSPACの演劇研修を受け入れられたのは、すでに社是と3つの行動理念が浸透していたからです。社是と3つの行動理念が浸透していなければ、どんな研修も意味をなしません」

理念と態度。思考と身体。理性と感受性。

これらをつなぐものが「演じること」だとしたら演劇はビジネスに必要なものとなりうるだろう。

書籍『演劇脳とビジネス脳』では、「経営」と「演劇」が交差する現場で見出された、新たな組織のあり方、個の生き方にも触れている。今回はスズキを例にこれからの組織のあり方を紹介したが、「どのような役を、どう演じて、どのような世界観を表現したいのか?」は劇場の外のビジネスの場でも、多く必要とされていくと考える。

文=西村真里子

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