政治

2025.08.18 08:00

宿敵アルメニアとアゼルバイジャンの和平合意で動き出す「トランプ回廊」

米首都ワシントンのホワイトハウスで、同国のドナルド・トランプ大統領(中央)による仲介の下、和平協定に署名したアゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領(左)とアルメニアのニコル・パシニャン首相。2025年8月8日撮影(Andrew Harnik/Getty Images)

米首都ワシントンのホワイトハウスで、同国のドナルド・トランプ大統領(中央)による仲介の下、和平協定に署名したアゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領(左)とアルメニアのニコル・パシニャン首相。2025年8月8日撮影(Andrew Harnik/Getty Images)

旧ソビエト連邦構成国アルメニアとアゼルバイジャンの首脳は、米国のドナルド・トランプ大統領の仲介の下、和平協定に署名した。これにより、両国は数十年にわたる対立に終止符を打った。

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この協定には、両国を通過する極めて収益性の高い貿易ルートの創設が盛り込まれている。現在「ザンゲズル回廊」と呼ばれているこの構想は今後、米企業が開発を請け負い、「国際平和と繁栄に向けたトランプ回廊」と改名される。同回廊上には、鉄道線路、通信網、石油・天然ガスのパイプラインが通ることになる。

これを実現するために宿敵のアルメニアとアゼルバイジャンが和解したわけだが、なぜこの回廊はそれほど重要なのだろうか? 同回廊は中央アジア諸国からカフカス山脈を下りトルコへ、さらには世界へと続く道を開き、古来のシルクロードを復活させるものと期待されている。これまではロシアとイランが結託して中央アジアから西方面への貿易を自国の領土を通過するよう強制してきたが、新たな回廊が実現すれば両国を迂回(うかい)できるようになる。

新回廊の創設によって最大の敗者となるのは、ロシアだろう。同国は2世紀以上にわたり、トルクメニスタンからキルギスに至る中央アジア諸国を自国の裏庭のように支配し、依存関係を強要しながら締め付けてきた。これらの国々は今や、ロシアの実効支配から経済的に解放されようとしている。

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アルメニアは新回廊の地政学的な意味合いを十分に理解している。一見すると、同国の歴史的な敵対国、つまりアゼルバイジャンや中央アジア諸国を含むトルコ系の国々が、新回廊を通じて再び物理的に結び付くかのように見える。では、なぜアルメニアがこの構想に合意したのだろうか? なぜなら、同国はロシアによる安全保障の約束に失望したからだ。ロシアはウクライナ侵攻を開始して以降、シリアやイランなどの同盟国の防衛に繰り返し失敗している。アルメニアは、ロシアが2023年にアゼルバイジャンによる係争地ナゴルノカラバフの奪還を許した上に、ザンゲズル回廊構想へのロシアの参加を提案したことに激怒した(訳注:これらの出来事の詳しい経緯は、筆者の過去記事を参照)。

こうした中、米国を巻き込むことで、アルメニアはトルコ系諸国の脅威を抑制できる存在を確保するとともに、ロシアの裏切りに対して報復することもできる。一方のトランプ大統領にとっても、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との今後のウクライナ和平交渉での影響力を強められるほか、イランに対する影響力も強化できるといった利益がある。また、誰も言及していないが、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」が重要な出口段階で、イランを経由せずに新回廊に置き換えられるといった追加的な利点もある。

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翻訳・編集=安藤清香

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