第一に、トランプ大統領はロシアをザンゲズル回廊への参加国として再度含めるよう提案することもできるが、プーチン大統領のかたくなな態度次第で提案しない可能性もある。第二に、イランにとっては、隣国アゼルバイジャンが新回廊によって豊かになれば、国内北部に多く居住しているアゼルバイジャン系住民が流出するという恐れがある。中国に関しては、内陸国である中央アジア諸国に新たな貿易ルートが確立されれば、隣接する中国への経済的な依存を軽減することができるようになるという脅威が生まれる。
新回廊に関する報道で触れられていないもう1つの側面は、ジョージアへの影響だ。ジョージアは現在、アゼルバイジャンの首都バクーから自国の首都トビリシを経由してトルコ南部のジェイハンに至る石油パイプラインをはじめ、貿易ルート上に位置していることで大きな利益を得ている。だが、新回廊が実現すれば現行のルートがすべて不要になるため、ジョージア経済が打撃を受けることになるだろう。
また、ジョージア政権は実質的に、国内で最も裕福な人物で親ロシア的なビジナ・イワニシビリによって操られていると言われている。イワニシビリの政敵で現在は投獄されている親米派のミヘイル・サアカシビリ元大統領は、自身が指導者として在任していた頃の西側諸国と協調していた時代とは対照的に、ジョージアにとって地政学的かつ経済的に破滅的な事態を招く可能性があると指摘した。サアカシビリ元大統領は、ジョージアからの人口流出と貧困化が加速しているとして、「わが国はイランやロシアと並んで地政学的に完全に孤立しようとしている。欧米との戦略的同盟を破棄したことがわが国をここに導いた」と批判した。つまり、ジョージアの親ロシア派政権が不安定化すれば、ロシアの近隣諸国への影響力にとってさらなる打撃となるだろう。
他方で、アルメニアとアゼルバイジャンの和平協定と新回廊の見通しも順風満帆というわけではない。最近では、イランの高官が「この回廊はトランプ大統領の所有物となるどころか、同大統領の傭兵たちの墓場となるだろう」と述べ、公然と報復を示唆した。この協定で想定されている新たな社会基盤の規模を考慮すると、妨害行為に対する脆弱(ぜいじゃく)性も最大限に考慮する必要がある。そうなると、参加する米企業が地政学的に問題を抱える国々から新回廊の安全性をいかに守るかという問題が浮上する。ザンゲズル回廊はパナマ運河やスエズ運河と本質的に同等の存在であり、いずれの運河も完成前後の数十年間にわたり西側の軍事支援を必要としていた。こうした取り組みを保護するためには地上部隊の派遣が必要になるが、これはトランプ大統領の「米国第一」主義の公約で掲げられた外国との軍事的関わりを避ける方針と矛盾することになる。


