北米

2025.08.16 09:00

米海軍の対中抑止、「アキレス腱」はパナマ運河 西海岸の造船強化が急務

パナマ運河(Shutterstock.com)

パナマ運河(Shutterstock.com)

小型の自律型艦艇を用いて中国の巨大な通常海軍戦力を抑止するという米海軍の構想は、たしかに魅力的である。唯一の問題は、米海軍のこうした戦略はパナマ運河の運用状態に依存するということだ。

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大西洋と太平洋を結ぶ「近道」であるパナマ運河を利用できなければ、米海軍が膨らませるハイテク技術の夢はたちまち兵站の悪夢と化してしまう。もし米海軍の作戦計画が太平洋全域に大量の消耗可能な小型艇を展開させることに基づくのなら、米海軍はこうした小型艇を米西海岸で大規模に建造する体制の構築に真剣に取り組むべきだ。

長年、小型艦艇を艦隊から除去してきた米海軍が、ここへきて方針を変え始めたのは良い兆しである。もっとも、多数の消耗可能な小型艇を太平洋に送り込むという発想は新しいものでない。

一例を挙げれば、第二次世界大戦中、米海軍は哨戒魚雷艇(PTボート)という小型・軽量の高速艇を運用していた。全長23〜25m程度のPTボートは世界中の戦域で使用され、太平洋では終戦までに少なくとも212隻が戦闘に投入された。こうした舟艇(しゅうてい)は米東海岸の造船所で進水したあと、パナマ運河を通って太平洋に広がっていくというかたちで前線配備された。

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小型艦艇に関しては、米国の太平洋方面の作戦計画は85年前からたいして変わっていない。ほとんどの水上戦闘艦や沿岸警備艇(カッター)は、大西洋と太平洋を行き来するうえでパナマ運河を頼りにしている。

米海軍の現役運用担当者の間では、パナマ運河は常に当てにできるアセットとみなされており、わざわざ不測の事態を検討する人は非常に少ない。パナマ運河は1914年の開通以来、米国の戦闘計画で疑問の余地のない構成要素となってきたため、ハイテクに通じた現代の米軍人にも、この世界的なチョークポイントが自由に使えることを自明視している人があまりに多い。

その考えは誤りだ。

兵站やインフラ防衛の専門家は、パナマにあるこの両大洋間の戦略的近道が脅威にさらされていることを理解している。米海軍は、米国ができうる限りの安全保障を提供しても、さまざまな敵や競争相手、犯罪者らはほぼいつでもパナマ運河を封鎖できてしまうという不都合な現実に向かい合わなくてはいけない。現代の「ハイブリッド」紛争では、どんな複雑なインフラも完全に安全であることはあり得ないのだ。

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翻訳・編集=江戸伸禎

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