北米

2025.08.16 09:00

米海軍の対中抑止、「アキレス腱」はパナマ運河 西海岸の造船強化が急務

パナマ運河(Shutterstock.com)

現代海軍の作戦立案者は、第二次世界大戦中、小型艦艇にとって前線への移動は一般に容易ではなく、多くの場合、骨の折れる移動の連続だったことを忘れてしまっている。

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たとえば、アラスカ州のアリューシャン列島方面に向かうPTボートは、まずルイジアナ州ニューオーリンズから自力で20日ほどかけてパナマ運河まで航行した。その後、別の船に積み込まれて、1カ月ほどかけてワシントン州シアトルまで運ばれた。そこから、再び自力でさらに1カ月かけてアラスカ州エイダックまで航行し、そこで戦闘に投入された。この長い航海は大きな損耗を強いるもので、アリューシャン方面に送られたPTボート第1弾のうち、予定どおりに、かつ戦闘可能な状態で到着したのは75%にすぎなかった。

現在の米海軍は、このような状況に対応する準備ができていない。

端的に言えば、米海軍にはパナマ運河が長期にわたって封鎖された場合の対応計画がなく、小型艦艇を戦闘に送り込む兵站任務を管理する計画も存在しない。ホーン岬経由で自律型小型艇の大規模な輸送を行うのに必要な貨物船も護衛艦もなければ、整備要員も欠いている。こうした小型艇を戦闘に投入するための重量物運搬船もほとんどない。また、移動中の損耗を補うために、小型艇の必要数の125%以上を建造する必要があると見越しているような人も、米海軍内には見当たらない。

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繰り返せば、唯一の現実的な解決策は、太平洋での戦闘に必要となる小型艦艇を建造し、さらにはそれを量産する準備を進めることだ。

これは数字で考えても合理的だ。東海岸やメキシコ湾岸の造船所で建造された小型の自律型艦艇を太平洋で戦闘に投入するのに数カ月かかるのなら、西海岸の現代的な造船所はその間にこうした艦艇を数隻建造できるだろう。米海軍はヘンリー・カイザー(編集注:第二次世界大戦中、米国で画期的な造船方法を導入し、驚異的なペースでの輸送船量産に成功した実業家)の例にならい、西海岸の現代的な造船所が3カ月で建造できる艦艇の管理に注力すべきだ。米海軍は忘れているかもしれないが、第二次世界大戦の最も厳しい時期、西海岸の造船所は「リバティ船」と呼ばれた輸送船を10日で建造できた。

自律型艦艇を太平洋の深部へ送り出す兵站任務は難しい。台湾やフィリピンなどに対する中国の侵攻や蚕食を抑止するのはもっと難しい。米海軍が迅速に行動して西海岸での造船能力を強化しない限り、太平洋の安全保障はパナマ運河の運用状態に縛られることになるだろう。だが、これは米海軍の戦略としてもはや受け入れられるものではない。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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