経済・社会

2025.08.15 17:15

日本人が減っているあの国と、「ヤシの木」型のビーチで移住者を増やすドバイ

Felix Lipov / Shutterstock.com

人工ビーチがヤシの木の形の理由は、「カネ」

こうした投資家にとっての好条件に加え、ドバイ政府による戦略的な都市開発が、不動産市場の加熱に拍車をかけている。なかでも象徴的なのが、“海岸線を創出する”という独自の都市設計思想だ。人工島の造成によって新たなビーチフロントを生み出し、その希少性をレバレッジに、富裕層向けの高付加価値物件を継続的に市場へ投入している。

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代表格が「パーム・ジュメイラ」。ヤシの木の形を模したこの人工島には、プライベートビーチを備えた高級ヴィラやタワーマンションが立ち並び、世界中の富裕層がこぞって購入を狙う。開発を担うのは政府系デベロッパーのナキール。島の各枝にはおよそ150棟という限られた数しか存在せず、供給量が意図的に抑えられている。2001年ごろから販売されて2006年に完成したもので、当時の販売価格は4億円からのスタートだった。

現時点での価格は安くて20億円、相場は20〜40億円、高いものだと100億円を超える。

「パーム・ジェベルアリの次の第二フェーズの販売は、枝の幹に近い部分の物件から順番に販売しており、平米数の少ないものはすでに全て完売となっております。次のフェーズは敷地面積1200㎡以上の、7ベッドルームのタイプの物件の発売は今年9月ないし10月から販売と言われております。第一フェーズの販売はユニット数を遥かに上回るほどの申込が入り、発売日前夜には長蛇の列が出来、2時間で完売したとニュースでも取り上げられていましたので、第二フェーズも非常に注目を集めております」(児山氏)

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このように、土地が希少であることを“創り出す”というアプローチは、ドバイならではの地政学的かつ経済合理的な発想と言える。実際、都市と自然資源の再定義を通じて不動産を資産化し、外貨を戦略的に呼び込むこの手法は、観光・居住・投資のすべてを一体で設計するドバイモデルの中核をなしている。

さらに現在、パーム・ジュメイラに続く第二の巨大プロジェクト「パーム・ジュベル・アリ」の開発も再始動し、より広大な海岸線の獲得と高付加価値エリアの拡張が計画されている。政府系の開発会社がインフラから水道、交通、生活利便施設までを包括的に設計・提供するため、富裕層の移住や法人設立、教育移住に至るまで、幅広いニーズを受け止める受け皿となっている。

世界的に見ても、ビーチ付き不動産の絶対数は限られており、気候リスクや土地制約、環境規制の強化により新規供給は難しい。その中で、人工的に海岸線を増やし、整備された法制度と安全な治安を担保した都市国家が資産保全先として台頭するのは、ごく自然な流れと言える。

“海岸線を投資商品化する”という発想は、都市設計と資産戦略が融合したドバイのユニークな成功モデルだ。

限られたリソースに独自の創造力を加えることで、希少性と成長性、そしてグローバル資本の流入を引き寄せるこの枠組みは、次世代の都市国家の方向性を映す鏡でもある。

「次に選ばれる都市」としての可能性

とはいえ、急速に膨張する市場には一抹の懸念もある。フセイン氏は「ドバイは東京やシンガポールと比べればまだ割安だが、デベロッパーが供給を急ぎすぎている面もある」と慎重な見方を示す。

実際、シンガポールでは不動産購入時に最大60%のスタンプ税が課されるようになり、富裕層の資金が相対的にドバイへと流れやすい構造が出来上がりつつある。

都市の成熟度、ビジネスの柔軟性、治安、税制、教育、そして国際的な多様性。これらが複合的に絡み合い、ドバイは今、世界の移住・投資先として確かな存在感を放っている。

移住の動機は単なる「住みやすさ」ではない。教育環境、税制対策、資産の分散といった複合的な視点が、ドバイを選ぶ理由となっている。児山氏は、「安全性や利回りの高さだけでなく、日本では得られない自由度や新たな可能性がある」と語る。

不動産価格が今後も上昇を続けるかどうか、その答えはまだ見えない。しかし、日本人の移住や投資の動きが確実に変わり始めていることは、ひとつの時代の転換を示唆している。どの都市が選ばれ、どの都市が離れられていくのか──その変化の兆しは、私たちが何を重視し、何を未来に託そうとしているのかを映し出している。

文=雨宮百子

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