UNDER 30

2025.08.18 19:00

伊藤穰一、孫正義らから20代に学んだ「リスクを取る意義」

千葉工業大学学長、ベンチャーキャピタリストの伊藤穰一

リスクはなるべく早く取るべき

もともと育った家庭環境が、多様だったんです。父親は科学者だったんですが、典型的な自閉症スペクトラムでコミュニケーションがうまくなかった。対して母親は社交的で、ホームパーティが普通の家だった。決して裕福な家ではなかったけれど、いろんなゲストが遊びにきて、大人子どもの区別がない形でおしゃべりしていた。

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ノーベル化学賞の福井謙一先生も、そういうなかで交流が生まれた方で、僕が思い出せないくらい小さいころから遊んでくれていたそうです。よく覚えているのは13歳か、14歳のころ、帝国ホテルのレストランに二人でごはんを食べに行ったときのこと。僕は夢中になってコンピュータネットワークの話をしていたら、先生は目を閉じて聞いて、それからパッと目を開けて「カオスの勉強をしなさい」「フラクチュエーション・アンプリフィケーション(変動の増加)にお気をつけなさい」とアドバイスをくださる。

僕が20代になっても変わらず議論をさせてもらいましたが、先生にとっても大学では教えない専門外のことを自由に発想し、語ることができるからか、とても楽しそうにしてくださった。今、思い返すと、本物の科学者とは未来が見えている人なんだという思いを強くします。「今後、水素が重要になる」と、今で言うところの再生エネルギーの話もしてくれていましたし、僕が論文にもした「Resisting Reduction」(還元主義への抵抗)や、インターネットのアーキテクチャについてのヒントは、福井先生からもらったものがたくさんあります。

こうした人との縁は、母によるところが大きく、僕はその「すねかじり」で20代までを過ごしてきたところがあったんです。ところが、95年、まさに僕が30歳を迎えるときに、母は癌でこの世を去ります。入院治療費も膨大で、おまけに残された借金まであった。四畳半のアパートでコンビニ弁当を食べながら毎月100万円を返済するような日々も過ごしました。自分で稼がなきゃ、どうにかしなきゃともがいていた時期ですが、これが僕にとっての「大人モード」への転換だったと思います。

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僕の場合はやむを得ずの面もありますが、自分から苦労できるのは30歳までかなと思います。だから、U30の人たちに何か伝えるとすれば「リスクはなるべく早く取ったほうがいい」ということ。そしてもう一つ付け加えるとすれば「自分に向いた学び方に、積極的にハマっていくべき」ということでしょうか。母のおかげでネットワークに恵まれていたところはあるけれど、やっぱり僕は人と話すことが好きだし、一番の学び方だと思っています。だから、いろんな人に会うことが今でもとても楽しいし、20代の頃に出会ったクラブカルチャーやユニークな人たちから学んだことは、今の自分を形成している財産だと思っています。

いとう・じょういち◎千葉工業大学学長、デジタルアーキテクト、ベンチャーキャピタリスト、起業家、作家、学者。教育、民主主義とガバナンス、学問と科学のシステム再設計などの課題解決に向けて活動中。米マサチューセッツ工科大学メディアラボ所長、ソニー、ニューヨークタイムズ取締役など歴任。株式会社デジタルガレージ取締役。デジタル庁デジタル社会構想会議構成員。主な近著に、『AI DRIVEN AIで進化する人類の働き方』(SB新書)などがある。

フォーブスジャパン編集部=文 小田駿一=写真

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