メタのAI戦略を蝕む、「混沌」と評される企業文化
メタは2013年12月、AI特化の社内ラボ「FAIR」を立ち上げた(設立当初のこの略称はFacebook AI Researchを短縮したものだったが、2021年の社名の変更後はFを“Fundamental”の略とするようになった)。著名なAI研究者でニューヨーク大学教授のヤン・ルカンが率いるこのラボは、その当時、最先端のAI開発を目指す人材にとって最高の職場の1つとみなされ、コンピュータービジョン、自然言語処理の先駆的研究に貢献した。「AI研究の黄金期だった」とある元メタの研究科学者は振り返る。
同社は2023年2月、AI研究について、FAIRではなく、より製品開発に重点を置いた「GenAI」チームに統合した。FAIRは現在も存続しているものの、「ゆっくりと死を迎えている」状態で、計算資源の割り当てが減らされ、主要な人材流出にも見舞われているという。その元研究者は「ザック(ザッカーバーグ)はFAIRの重要性を下げるべきではなかった」と批判した。これに対し当時のメタは、FAIRの重要性が低下したという見方を否定し、「統合によって長期的なプロジェクトに集中できる。FAIRとGenAIは緊密に連携しており、両チーム間の調整・意思決定は以前より迅速になっている」と主張した。
しかし別の元上級研究者によると、新設されたGenAIチームは、会話型AIアシスタントや、ザッカーバーグが2023年の年次製品発表会「Meta Connect」で世界に披露したAIキャラクターなどの製品を、深夜や週末まで働き詰めで短期集中開発(スプリント)するよう求められたという。他部署からGenAIに引き抜かれたと語るこの研究者は、「何もない状態から完成まで6カ月しかなかった」と明かした。
当初は200〜300人の規模だったGenAIチームは、その後約1000人にまで拡大した。
AI競争が激化する中、2024年から2025年にかけても製品を出荷し続けるため突貫作業が続き、「一年中、狂ったように働き詰めだった」と彼らは語る。しかし、時間が経つにつれて、その突貫作業は次第に「混沌」としているように感じ始めた。メタの元AI部門社員2人は、「モデルの事前学習方法など技術的アプローチをめぐって上層部内で意見が対立し、チーム間で権限が重複し、成果の取り合いが起きた」と証言した。チームは数週間単位で立ち上がっては解散し、研究者は頻繁に別のプロジェクトに振り向けられた。メタで3年間働いた元AI研究者の1人は、その間に上司が7回も入れ替わったと話した。
元上級AI研究者の1人は、ザッカーバーグが描く「メタバース」構想が、さらに混乱を招いた要因だと指摘した。同社幹部は、AIの重要性が増していた2022年末になっても、数十億ドル(数千億円)規模の資金とリソースを注入したメタバースを最優先事項だと主張した。その年この研究者は、VRゲーム、メタバース・プラットフォーム「Meta Horizon」に異動となったが、「会社側は、私たち全員をどう扱えばいいのか、本当に分かっていなかった。正直、あまりにも見通しの甘い人事だった」と述べている。彼はその後、GenAIチームが立ち上がったことで、そこから抜け出せたという。メタ広報担当のダニエルズは、これらの主張に関するコメントを避けた。
別の元AI研究者によると、メタの社員は年2回のパフォーマンス評価で、自分の構築したデータセットがモデルの学習に使われたか、担当したモデルが特定のベンチマークで高得点を取ったかといった実績を報告することを義務付けられていた。成果を示せなければ、職を失うリスクがあったという。
「この影響で社員は、自分の担当領域を囲い込み、他の人が自分のプロジェクトに関わらないようにし始めた。その結果、社内の協力が難しくなった」と、この元研究者は指摘した。広報担当のダニエルズは、この評価プロセスが全社的に一貫して行われていると認めた。


