止まらぬ人材流出と、AI人材を補うための採用攻勢
ベンチャーキャピタル(VC)のSignalFireが5月に発表した報告書によると、Anthropic社員の定着率は80%で、最先端のAIラボの中で最も高い。この調査結果は、エンジニアリング、営業、人事を含む全職種に従事する正社員のデータに基づいており、AI研究者に限らない。ディープマインドの定着率は78%、OpenAIは67%で、メタは64%だった。
SignalFireが8月に発表したエンジニア人材全般に焦点を当てた報告書では、メタが全社的にエンジニアを積極採用しており、離職者の2倍となるペースで進めていると指摘した。「メタがエンジニアチームの立て直しに注力している背景には、人材流出が続いていることが挙げられる。このことは、シニアAI人材をめぐる競争の激しさと、トップ企業でさえも新たな取り組みを拡大しながら経験者を補充しなければならないことを示している」とSignalFireの開発者コミュニティ責任者のジャロード・レイエスは述べている。
高額報酬で著名なAI人材の雇用と拡充
この6月、ザッカーバーグはデータラベリング大手Scale AIの元CEOで28歳のアレクサンダー・ワンを雇い入れ、同社の株式49%を取得した。ワンはその後、幅広い認知タスクで人間を上回るAIシステム、「超知能」の構築に特化した「メタ・スーパーインテリジェンス・ラボ(MSL)」を社内で立ち上げて、その指揮を執ることになった。
また著名なAI投資家でGitHubの元CEO、ナット・フリードマンをはじめ、OpenAI、グーグルのDeepMind、Anthropicからも十数人のトップ研究者を引き抜いた。その一部には、4年間で総額1億〜3億ドル(約146億~約438億円)の報酬パッケージを提示されたと報じられたが、メタは提示額が「誤って伝えられている」と主張している。
6月下旬には、著名なAI投資家ダニエル・グロスもメタに加わった。彼は、元OpenAIの研究責任者イリヤ・サツケバーと共同で評価額320億ドル(約4.6兆円)のAIスタートアップ「Safe Superintelligence」を創業し、CEOを務めた人物だ。
メタは、社内の人材も新チームに異動させている。WSJによると、同社はインフラ部門のスタッフ9人をMSLに配置換えしたが、この動きは、それら社員の一部がThinking Machines Labからオファーを受けた後のことだったという。
ザッカーバーグは、かつてメタを去った人材の再雇用も試みており、同社の元上級エンジニアリングディレクターのジョエル・ポバー、2023年にAnthropicへ移った元リサーチエンジニアのアントン・バフティンを再雇用したとWSJは報じている。両者はコメント要請に応じなかった。
止まらないAI人材流出
一方で、同社からの離職は依然として続いている。5月のSignalFireの報告書によれば、メタは2024年、「全職種を対象にした、引き抜かれた人数」でテック大手の中の2位となっており、他社のAIラボの新規採用者のうち4.3%をメタ出身者が占めていた。なお、最も人材を引き抜かれたのは、グーグル(DeepMindを除外した数字)だった。
Anthropicは先日、メタの主任研究科学者を務め、同社の主力AIモデル「Llama」の研究戦略を共同で主導していたローレンス・ファン・デル・マーテンを、技術スタッフとして採用した。企業向けAIスタートアップWriterは6月、メタの元上級研究科学者でテックリードだったダン・バイケルをAI部門責任者として迎え入れた。バイケルはメタで、特定の行動を自律的に実行できるAIエージェントに関する応用研究を率いていた。
メタからは5月にも、責任あるAI(Responsible AI)部門を率いていたクリスティアン・カントンが退社し、公的研究機関のバルセロナ・スーパーコンピューティング・センターに移籍した。3月には、FAIR(Facebook AI Research)の元ソフトウェアエンジニアのナマン・ゴヤルと、元上級AI研究科学者のシャオジエ・バイが、Thinking Machine Labsに移籍した。マイクロソフトも、「最も採用したいメタのエンジニアと研究者」のリストを作成し、メタと同等の条件を提示するよう採用部門に指示したとBusiness Insiderは報じている。
フランスのAIスタートアップMistralには、2023年4月の創業以来、少なくとも9人のAI研究科学者がメタから直接移籍している。これは、フォーブスが行ったLinkedInの調査で判明したものだ。彼らは、メタでLlamaの初期バージョンの学習に携わっていたメンバーで、このうち2人は過去3カ月以内に採用されていた。
イーロン・マスクは最近、自身のAI企業xAIがメタから複数のエンジニアを採用したと明かし、彼らに「法外」な報酬、「持続不可能なほど高額」な条件を提示したわけではないと述べていた。Business Insiderによれば、xAIは2025年1月以降にメタ出身エンジニア14人を採用している。


