米航空宇宙局(NASA)の暫定長官を務めるショーン・ダフィーは5日、トランプ米政権が実用可能な核分裂反応炉を2030年までに月面に設置する意向であることを明らかにした。「米国は月開発競争の只中にある。中国との月の開発競争だ」と、ダフィーは述べている。
原子炉の設置は、月の塵の中に旗を立てるよりも効力がある。ダフィーは、原子炉の周囲を「立入禁止区域」にする案に言及した。立入禁止区域を設ければ、水氷があるクレーターなどの望ましい領域の領有権を有効に主張できる。
ダフィーの5カ年計画は野心的すぎるように思われるだろうか。NASAと請負企業の多くが長年、原子力に依存していることを考えると特にそうでもない。1960年代以降、NASAは原子力(放射性同位体)電池を用いて、アポロ計画、宇宙探査機、火星着陸機に電力を供給してきた。原子力電池は、プルトニウム238や他の放射性同位体が崩壊する際に放出する熱を電気エネルギーに変える。アポロの原子力電池は今も月面にあるほか、太陽系を離れた初の人工物である探査機のボイジャーやパイオニアにも原子力電池が搭載されている。
だが、これらの電池の出力はわずか100ワット(W)以下だ。ダフィーが言及しているような核分裂反応炉の方がはるかに複雑だ。この反応炉はウラン燃料の核分裂で熱を発生させ、100キロワット(kW)の電力を出力できる。これは地球の一般家庭数十世帯分の電力需要に相当するにとどまる。月面基地に電力を供給するには多数の核分裂炉が必要になるだろう。
月面に原子炉は必要なのか。NASAは10年前、答えはイエスだと判断した。月面では多くの場所で夜が14地球日の間続くため、太陽光パネルは頼みにならない。また、石油や石炭や天然ガスは、たとえ軌道に乗せることができても、真空中では燃焼させることは不可能だ。
NASAはまず、「キロパワー計画」を通じてマイクロ(超小型)原子炉技術を検証した後、2022年には40kW発電システムの設計を完成させる目的で、3つのコンソーシアム(共同企業体)と500万ドル(約7億4000万円)の開発契約を交わした。月面原子力発電(FSP)計画の仕様の要求事項としては、システムは総重量が6トンで、円筒状容器(直径約4m、全長約6m)に格納可能なこと、自動制御で10年間稼働可能なこと、整備や燃料補給が不要なことなどが挙げられている。
これは厳しい要件になっていると、米アイダホ国立研究所(INL)でFSP計画を率いるセバスチャン・コルビシエロは指摘する。コルビシエロのチームは、1年にわたりNASA発電システムの設計案を開発した3つの企業体を選定した。「地球では、原子炉が軽量で小型になるように設計されることはない。宇宙空間では、ロケットに積載できるようにできるだけ質量を小さくする必要がある」と、コルビシエロは説明している。
月面原子炉は、火星の植民地を維持できるシステムの開発に向けた重要で不可欠な第一歩となると、コルビシエロは強く考えている。コルビシエロのチームが2023年に明らかにしたように、「月面原子力発電は月での持続可能な滞在に必須」なのだ。



