サイエンス

2025.08.14 18:00

世界で最も個体数が多い猛禽類、日本にもいる「トビ」がもつ高い適応力

個体数は全世界で500万羽を超えるというトビ(Shutterstock.com)

Ethology Ecology & Evolution』 および『Journal of Avian Biology』で発表された研究によれば、移動パターンは地域によって異なる。旧北区(インドなどを除くユーラシア大陸と北アフリカの一部に広がる生物地理区)の一部の個体群は長距離を移動するが、そのほかの地域、とくにインドやオーストラリアの個体群は、一年を通じて同じ場所にとどまるという。GPS追跡により、北アジアの個体が南アジアや東南アジアで越冬する一方で、熱帯地域の個体群は同じ場所にとどまる傾向があることが確認されている。

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何時間も上昇気流に乗って帆翔するトビ(Shutterstock.com)
何時間も上昇気流に乗って帆翔するトビ(Shutterstock.com)

そうした地域による違いは、遺伝子に反映されている。DNA分析では、ヨーロッパ、北アジア、インド、オーストラリアの個体群に明確なハプログループ(共通の祖先に由来する類似のハプロタイプ[半数体の遺伝子型]を持つグループ)があることがわかった。これは、歴史を通じて分離し、遺伝子の流れが限定されていたことを示唆している。

『Zootaxa』で2024年に発表された研究では、インドとオーストラリアのトビは、最終氷期末に分岐し、以後はハプロタイプを共有していない可能性があることがわかった。一方、アフリカの個体群、とりわけキバシトビは、遺伝的にはっきり異なっているため、現在では多くの研究者が別の種と見なしている。

そうしたもろもろの知見は、地理、気候変化、さまざまな渡り戦略によってかたちづくられた複雑な進化史を垣間見せている。

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猛禽類の多くは、生息環境の喪失、汚染、迫害による脅威に直面しているが、トビはこれまでのところ、分布域の大部分で安定した個体数を維持している。人間によって改変された環境を活用できる彼らの能力が助けになっていることは間違いない。

トビの成功の物語は、都市化に直面して数を減らしているほかの多くの猛禽類の運命とは際立った対照をなしている。彼らは、適応力こそが強力な生存戦略であることを思い出させる傑出した事例だ。とりたてて希少ではないし、猛禽類を象徴する存在でもないかもしれないが、ことレジリエンス、地球規模の分布、数の多さという点では、トビはほかの猛禽類の追随を許さない。

forbes.com 原文

翻訳=梅田智世/ガリレオ

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