突撃部隊の死傷率は80%以上が当たり前だとも伝えられており、負傷した生存者は集められ、松葉づえをついてでも次の攻撃に強制的に参加させられる。さらには、技術専門家やその他の部隊まで突撃部隊に駆り出されるという。2024年にはロシア唯一の航空母艦「アドミラル・クズネツォフ」の乗組員全員が地上に送られ、海軍歩兵部隊として再編成され、ウクライナ東部ドネツィク州の要衝ポクロウシクに配備された。
ウクライナ側の死傷者数は不明だが、恐らくかなり少ないものとみられる。通常、守備側が失う兵士の数は攻撃側の数分の一だ。特にドローンが戦闘の多くを担うようになって以降、ウクライナ軍の兵士が敵と接触することはほとんどなくなった。
他方で、ロシア軍が新たな兵士を供給され続ける限り、同軍は前進し続けることができる。米シンクタンク戦争研究所(ISW)によると、ロシア軍は昨年、1平方キロ当たり58人前後の死傷者を出した。ウクライナ大統領府のパウロ・パリサ副長官は、同軍は今年半ばまでに1平方キロ当たり167人の死傷者を出していると報告した。実に高くつく領土だが、プーチン大統領はそれを欲しているのだ。
甚大だがロシアにとっては持続可能な死傷者数
これだけの数の犠牲者を出すことは西側諸国では考えられないかもしれないが、ロシアでは、少なくとも国民が認識している限りでは、損失の規模に困惑している人はほとんどいないようだ。ロシア情勢を専門とするサミュエル・ベンデットは筆者の取材に対し、同国では実際、犠牲者の規模を認識していない人が多いと指摘した。さらに、政府の公式プロパガンダや政府支持派のソーシャルメディア(SNS)アカウントは、戦争には犠牲が必要だと主張していると語った。
ロシアは大祖国戦争と呼ばれる第二次世界大戦で戦死した2000万人以上のソビエト軍兵士を追悼する数多くの広大な墓地を誇りにしている。ロシアにとっての戦争とは、祖国のために犠牲を払い、個人が命を落とし、大義のために栄光を勝ち取ることなのだ。
プーチン大統領は2022年、死亡した兵士の母親とのテレビ会談で、まさにこの点に触れた。同大統領は母親に対し、「交通事故で死亡する人もいれば、アルコールが原因で死ぬ人もいる」とした上で、「あなたのご子息は自身の目的を果たしたのだ」とたたえた。


