キャリア・教育

2025.08.19 14:30

人生のレールを外れる「衝動」が大切な理由

谷川嘉浩

谷川嘉浩

『増補改訂版 スマホ時代の哲学』(ディスカヴァー携書)の著者であり、哲学者の谷川嘉浩。彼が提唱する「衝動を見つけることの大切さ」から、未来を切り開くためのヒントを発見できるだろう。


「夢は何か」「将来は何をやりたいのか」。そう問う大人を失望させないように、無難な答えを返したことはないだろうか。テンプレに沿った答えはその場しのぎになるが、何かのみ下せないものを感じた人は多いはずだ。一方、哲学者の谷川嘉浩は「あなたの『衝動』は何か」と問う。なぜ人は衝動と向かい合うべきなのか。話を聞いた。

──『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』(筑摩書房)を出版した。なぜ衝動をテーマに?

谷川嘉浩(以下、谷川きっかけは、ラジオで漫画家の魚豊さんの話を聞いたことでした。魚豊さんは、『チ。』で描いた地動説にとりつかれた人たちについて、「人から見たら『え? 何それ?』と見えちゃうことを、本人たちはド真剣にやっている。そこに興味があった」と聞いて私も興味があるなと。

──なぜその語りが琴線に触れたのか。

谷川:私は京都市立芸術大学の教員をしています。学生たちは、一人ひとり陰影のある夢を抱いて楽しそうにものをつくっています。ところが就活が始まった途端に、「どこにも存在しない平均的な大学生」みたいなことを言い始めます。おそらく就活でお祈りメールをもらううちに空気を読むようになるんでしょうね。社会人も同じです。企業に呼ばれて話す機会がありますが、途中は感度が良くて興味深い反応があるのに、最後に感想を聞くと、学校の読書感想文のような紋切り型のまとめばかり口にするんです。

忖度してお決まりのストーリーに回収する行為は、周りとのあつれきを避けられるという点で効率的です。でも、それを続けるうちに、自分や世界に対する解像度が粗くなってしまう。暑苦しい言い方になりますが、それでは学びにつながりません。短期的にストレスを回避できても、長期的には人生がつまらなくなると思います。

──衝動は「夢」や「欲望」と違う?

谷川:衝動は、周りだけでなく自分自身すら驚くような、ある種の不合理さを伴う原動力です。例えばみんなと公園で遊んでいるときに、アリから目を離せなくなって何時間も見ちゃう子っていますよね。その子にアリに夢中な理由を聞いてもおそらく答えられない。あのイメージです。

子どもに「将来は何になりたい?」と聞けば何か答えるかもしれませんが、それは大人が用意したもののなかから選ばせているだけ。一方、SNSを見て「これが欲しい」「あれをやりたい」と感じても、そう感じてしまっているだけで、冷静になれば望んでもいない。自分のなかでじっくり育まれたものが衝動。本の読者から、「やりたいことと、やっちゃっていることの違いですよね」と感想をもらいましたが、まさにそう。気づいたらやっちゃっていることが衝動です。

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文=村上 敬

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