サイエンス

2025.08.11 17:00

気流に乗り羽ばたかず160キロ彼方へ 「猛禽類の王者」アンデスコンドルの驚くべき飛翔力の秘密

アンデスコンドル(Shutterstock.com)

アンデスコンドル(Shutterstock.com)

猛禽類は肉食性の鳥類で、鋭い鉤爪と曲がったくちばし、鋭い視力という特徴を武器に、他の動物を捕まえて食べたり、死肉をあさったりする。

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猛禽類の代表格と言えるのがハクトウワシだ。先が曲がったくちばしは強力で、鋭い鉤爪は魚を捕まえるのにうってつけだ。視力も驚くほど良い。肉食性で、魚や小型の哺乳類を主に食べる。

一方、猛禽類ではない鳥の一例としてコマツグミ(アメリカンロビン)を見てみよう。体はぐんと小さく、イモムシやベリー類、昆虫を主に食べて生きている。鉤爪は持たず、視力もハクトウワシよりずっと弱い。

世界には現在、数百種類の猛禽類が生息している。タカ科に属するタカやワシ、トビ、チュウヒ、ハヤブサ科に属するハヤブサは猛禽類だ。フクロウ、ミサゴ、コンドル、ヘビを捕食するヘビクイワシもまた、猛禽類に数えられる。

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最も大きい猛禽類はハゲタカ(ハゲワシ類やコンドル類の俗称)、正確に言うとコンドルだ。南米のアンデス山脈に生息するアンデスコンドルは、体重が最大で35ポンド(およそ16kg)に達する。

ただしアンデスコンドルは、体重が最も重い鳥というわけではなく(最も重いのは、空を飛べないダチョウ)、空を飛べる鳥のなかで最も重いわけでもない(最も重い空飛ぶ鳥はノガン)。コンドルは、最も重い猛禽類だ。では、この見事なアンデスコンドルについて説明していこう。

猛禽類の絶対王者「アンデスコンドル」

Shutterstock.com
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アンデスコンドル(学名:Vultur gryphus)は、両翼を広げると10フィート(およそ3m)を超えるほど大きい(翼の面積は陸鳥最大)。体重が30ポンド(およそ13.6kg)以上であるもかかわらず、空中に楽々と舞い上がり、翼をほとんど羽ばたかせなくても、上昇気流に乗って滑るように飛ぶことができる。それこそ、エネルギーを維持して長時間を飛び続けられるコツだ。

積極的に狩りをする多くの猛禽類とは異なり、アンデスコンドルは主に死肉をあさって生きている。死んだ動物の死骸をエサにすることが多く、並外れた視力のおかげで、空高く飛んでいても地上にある死骸を発見できる。

アンデスコンドルのこうした行動は、生態系において重要な意味を持つ。アンデスコンドルが動物の死肉を食べ尽くせば、自然の恵みがいっさい無駄にならずに済むのだ。

アンデスコンドルの頭には羽が生えておらず、たいていは赤味や黄色味を帯びている。羽がないのは、動物の死骸をあさるときに頭部が汚れにくいよう、進化とともに適応したからだ。

アンデスコンドルは、体の大きさと、空高く舞い上がる飛翔力のおかげで、アンデス地域の起伏の激しい地形を長く飛び回り、エサを探すことができる。翼は幅が広く、その先端には「初列風切羽」が付いていて、指のように開くと揚力と操縦性が増すようになっている。山岳地帯の気流の中を飛ぶ際には、欠かすことのできない仕組みだ。

アンデスコンドルは、地上に降り立たずに何時間も飛び続けられる。翼をまったく羽ばたかさずに、1日に150マイル(およそ240km)以上を移動できるのだ。

(余談:アンデスコンドルに驚いた? 頭高が最高クラスで、めったに見られないワシを紹介しよう。)

アンデスコンドルの飛翔力は、驚くほど詳しく測定されている。2020年に「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で発表された研究では、高解像度のバイオロギング・データ(動物に小型センサーを装着して行動などを記録したデータ)を用いて、野生のアンデスコンドルが飛ぶあいだの翼の動きを200時間以上にわたって逐一記録した。

その結果、アンデスコンドルが翼を羽ばたかせた時間は、飛行時間全体の1%に満たないことが明らかになった。ある個体は、翼を1度も羽ばたかせずに100マイル(およそ160km)以上を一気に飛行していた。

次ページ > アンデスコンドルを参考に、風力発電用タービンブレードを開発

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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