現在、世界には約60種のワシが生息している。どの種もとりたてて個体数が多くはない。
世界で最も個体数が多いワシは、おそらくハクトウワシで、北米に推定30万羽が生息している。オーストラリアのオナガイヌワシ、北半球のイヌワシも、ワシのなかでは数が多いほうだが、いずれも推定個体数は10万羽程度だ。
これらの個体数は、他種の鳥類と比べれば微々たるものだ。比較対象として、世界で最も個体数が多い鳥はニワトリであり、いま生きている個体は200億羽を超える。野鳥のなかでトップクラスに個体数が多い種としては、イエスズメ(約16億羽が生息)、コウヨウチョウ(約15億羽)、ホシムクドリ(約13億羽)などがあげられる。
世界で最も希少なワシは、フィリピンワシだ。この種は、ワシだけでなく猛禽類(ワシ、タカ、トビ、チュウヒ、フクロウ、ハヤブサ、その他の肉食性鳥類の総称)全体で見ても、最も個体数が少ない種である。
以下では、姿を見るのが最も難しい猛禽類であるフィリピンワシについて紹介していこう。
絶滅寸前のフィリピンワシ

現地で「ハリボン(タガログ語で『鳥の王』)」とも呼ばれるフィリピンワシ(学名:Pithecophaga jeffreyi)は、フィリピンだけに分布する。4つの島(ルソン島、サマール島、レイテ島、ミンダナオ島)に、断片化した小規模な個体群が点在する。主に低地および山地の熱帯雨林に棲むが、こうした生息地は急速に縮小している。
フィリピンワシは巨大だ。直立時の頭の高さは90cmを超え、翼開長は200~210cmに達し、世界で最も背が高いワシの一つと考えられている。長くたくましい脚、巨大な鉤爪、特徴的な乱れた冠羽をもち、ライオンを思わせる風貌をしている。
フィリピンワシは強大な空のハンターであり、サル、ヘビ、ヒヨケザルなどの大型の獲物を捕食することから「サルクイワシ」の異名をもつ。
フィリピンワシは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドデータブックで「絶滅寸前(CR)」に指定されている。野生下の繁殖つがいの数は推定250組に満たない。
ただし、野生のフィリピンワシの調査は困難であるため、この推定値はおおむね種の生態と分布域に基づく数理モデルに依拠しており、実際の個体数には不確かな部分がある。2025年6月に学術誌『Journal of Raptor Research』に掲載された論文での推定によれば、実際の総個体数は、繁殖つがい64組まで減少している可能性がある。



