欧州

2025.08.05 09:30

「政治的に触れてはいけない」原子力発電を見直し始めた欧州、背景に何が?

フランス南部のトリカスタン原子力発電所(Getty Images)

反原子力姿勢を崩さなかった国々も見直しへ

中東欧にとどまらず、原子力の段階的廃止の方針を打ち立てていた国々の間でも、原子力推進の第二波が形成されつつある。この変化の政治的側面が最も顕著に表れているのはベルギーだ。同国政府は原子力発電を廃止するという法的拘束力のある約束をしつつも曖昧な態度を取り続け、2023年に方針を転換した。北部ドールと南部ティアンジュの両原子力発電所は閉鎖される予定だったが、10年間の運転延長が決まった。同国の脱原子力法は今年5月、正式に撤廃された。この方針転換は、緑の党を除外した連立政権が、燃料供給の安定性と気候変動への取り組みの有効性を理由に踏み切ったものだ。

advertisement

スペインも原子力発電を巡る議論を再開した。議会は今年初め、2035年までに国内のすべての原子力発電所を閉鎖する計画を見直すよう政府に求めた。この議論は、電力価格やエネルギーの信頼性、温室効果ガスなどに対する懸念の高まりを反映している。特に4月にイベリア半島全土で発生した大規模停電(訳注:再生可能エネルギーに過度に依存したことが原因で発生した事故だと批判されている)を受け、既存の原子炉の運転期間を延長する提案への支持が高まっているが、最終決定はまだなされていない。

1987年の国民投票で民生用原子力発電を放棄したイタリアは現在、大手電力会社エネル傘下のヌクリタリアを通じて、原子力発電への復帰を検討している。ヌクリタリアは今年可決された法律に基づき、SMR技術を評価するために設立された。同社は国家エネルギー戦略の転換に向けた基盤を築くことに重点を置いている。原子力が長らく「政治的に触れてはいけないもの」とされてきたイタリアで真剣な政策議論が再開されるようになったことは、世論が劇的に変化していることを示している。

ギリシャもまた、自国の立場を変え始めている。同国のキリアコス・ミツォタキス首相は今年、原子力が国の未来に重要な役割を果たす可能性があると公に認めた。正式な政策はまだ発表されていないものの、こうした発言の変化は過去の方針からの脱却を意味し、政府が新たな方向性を見いだしたことを示している。

advertisement

欧州で最も強い反原子力の立場を貫いていたデンマークでさえ、自国の姿勢を見直し始めている。同国は1985年以降、原子力発電を法律で禁止してきた。この禁止令は現在も続いているが、来年には政府がSMRの本格的な調査を実施することが決まっている。こうした変化の背景には、二酸化炭素の排出削減目標やIT関連の社会基盤に対する電力需要の増大などがある。

欧州の原子力発電を見直す動きは、何もないところから起こったわけではない。政治的惰性を打破し、原子力政策の見直しを迫るには、かつてない規模の危機が必要だった。長年にわたり政治的に触れてはいけないものと見なされてきた原子力が、戦略立案の中心に移ってきた。反原子力政策を貫き続けている国は、今やEU内では少数派となりつつある。

forbes.com 原文) 

翻訳・編集=安藤清香

タグ:

連載

Updates:ウクライナ情勢

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事