経済・社会

2025.09.19 14:15

自己資本比率3.22%という非常識に潜む街づくりへの情熱と覚悟

「OMACHI創造計画」を推し進める静岡県葵区人宿町の入り口。

「OMACHI創造計画」を推し進める静岡県葵区人宿町の入り口。

PARaDE代表の中川淳が、企業やブランドの何気ない“モノ・コト”から感じられるライフスタンスを読み解く連載。今回は静岡駅近くで街づくりを行う地域ディベロッパー「創造舎」の自己資本比率から読み解く、経営における情熱と覚悟について迫る。

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自己資本比率3.22%と聞いて多くの方は、その会社は大丈夫? 無謀な借り入れによっていつ破綻してもおかしくないのでは? と思われるであろう。一般的に大手ディベロッパーの自己資本比率は30%台を健康ラインとし、中小でも20%台が一般的だ。3.22%、それはもはや“非常識”の領域だ。

しかし、今回私が紹介する「創造舎」は、その常識的な認識を根底から覆してくれる静岡に根を張る地域ディベロッパーだ。彼らの異常なまでに低い自己資本比率は、単なる財務状況の危うさを示すものではなく、自らが信じる街の未来を創るために、あらゆるリスクを引き受けるという経営者の「覚悟」であり、揺るぎない「ライフスタンス」そのものの現れなのだ。

地域再生プロジェクト「OMACHI創造計画」

静岡駅から徒歩15分ほどの場所に、そのエリア人宿町はある。かつては静岡随一の映画館街として栄えたが、時代の流れとともに撤退が続き活気は失われ、空き家や空き店舗が目立つ、いわゆるシャッター商店街と化していた。この場所を舞台に、街の再生を手掛けているのが、山梨洋靖が率いる「創造舎」だ。静岡市の人々は中心市街地のことを親しみを込めて「OMACHI(おまち)」と呼び、これにかけて銘打ったプロジェクト名が人宿町「OMACHI創造計画」だ。

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驚くべきは再生の規模の大きさである。通常こうした地域再生プロジェクトは、数軒規模のこじんまりしたものが多い。しかし、創造舎がこれまでに関わったプロジェクトは、延べ100件を優に超える。一つの民間企業が、特定のエリアで3桁規模のプロジェクトを扱っている例は稀有であろう。一体、この会社は何者なのか。興味を惹かれた私は、数カ月前に静岡の地を訪れた。

創造舎のルーツは、2007年に山梨が創業した建築会社にある。事業承継ではなく、ゼロからの起業だ。2011年、たまたま売りに出ていた中古廃墟ビルと出会い、リノベーションして本社兼自宅を人宿町に移転した。同時期に地元の映画館3館が撤退し、街の中心にぽっかりと大きな空き地ができた。その光景を目の当たりにした山梨は、地元店主たちと「何かできないか」と、人が集える「アトサキセブン広場」を作って、地域住民や店主たちと街おこしイベントを繰り返し仕掛けた。だが、休日の広場は賑わうが、平日には誰もいないという状況に限界を感じたという。

その後、広場は取り壊されたため、今度は自社運営で「アトサキラーメン広場」を創った。平日はラーメン屋で常時の賑わいをつくり、休日はイベントを企画する。街に少しずつ活気が生まれ、新しい仲間となる小さな店が集まり始めた。街の人々から期待と喜びと感謝の声が相次ぎ「心が震えた」。この時、自身の中に宿った情熱が彼の原点となる。

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