経済・社会

2025.09.19 14:15

自己資本比率3.22%という非常識に潜む街づくりへの情熱と覚悟

「OMACHI創造計画」を推し進める静岡県葵区人宿町の入り口。

工務店として培った建築の知識を活かし、空き店舗を自らリノベーションし、面白い事業者に貸し出す。しかし、その手法は一般的なデベロッパーとは異なる。通常、デベロッパーは土地を仕入れ、建物を建て、それを売却または賃貸することで投資を回収する。特に地方では、投資効率が見合わないため、大手資本は参入しづらい。だからこそ、多くの地域再生は行政主導の補助金頼みになるか、小規模なものに留まらざるを得ない。

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しかし、創造舎は違った。彼らは大手ディベロッパーがファンドを組成して巨額の資金を集めるような、スマートな手法とは真逆の道を選ぶ。銀行からの融資、つまり「自分たちの借金」で土地や建物を取得し、それを自社で保有し続けるのだ。そして、面白いことをやりたいという情熱はあるが、資金力のない挑戦者を見つけると、店舗の内装費といった初期投資の大部分を創造舎が肩代わりする。その分を少しだけ家賃に上乗せし、長い時間をかけて回収していく。

なぜ、そんな非効率にも思える手法を取るのか。答えは明快だ。ファンドを組成すれば、投資家へのリターンが最優先となり、「儲かるかどうか」が絶対的な判断基準になる。しかし、自己資金であれば、口出しする人間は誰もいない。「この人は情熱があって面白い」。山梨がそう認めれば、事業が起こせる。採算度外視で「人」に賭けることができるのだ。

誰のための「再生」か

ユニークなのは彼らの街づくりが、決してお洒落なだけではないことだ。多くの地方の再生プロジェクトは、東京の感度を地方に持ち込んだお洒落な施設やお店で統一感を持たせて人々を魅了する。それはそれで素敵なのだが、当然、同じような風景が各地方に広がることになる。創造舎が手がける「人宿町OMACHI創造計画」には、そうした統一されたお洒落さはなく、むしろ意図的にそれを避けているようにすら感じられる。

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人宿町OMACHI創造計画のアイコン的な複合施設「人宿町マート」
人宿町OMACHI創造計画のアイコン的な複合施設「人宿町マート」

例えば、築70年の古民家を改造して八百屋や肉屋、クラフトビール屋などとカフェが一体となった「人宿町マート」のような複合施設もあれば、その隣には昔ながらの佇まいを残すうなぎ屋が営業を続けている。かと思えば、少し高級なフレンチレストランが裏路地にひっそりと佇んでいたりする。「お洒落な街にしようとはまったく思っていない」と山梨が言うように、雑多であることで多様性が生まれ、ここならではの独自の魅力を放っている。

街とは本来、多様な価値観を持つ人々が暮らす場所だ。過度に洗練された空間は、ある人々にとっては魅力的である一方で、別の人々にとっては居心地の悪さや排他性を感じさせるものになり得る。私自身、かつてお洒落すぎる店を作ってしまい、かえって客足が遠のいてしまった苦い経験があるから、その感覚はよくわかる。

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